何か一つ大きな災害でもあったときに、その瞬間は“ああ困ったなあ”となりますわ。けれども、あくる日になると変わってくるわけです。“慌てるな、待て待て、ああいうことをやっておっても解決しない。この際、こうして考え直そう”ということで考える。
銀行でも、今ごろは、何でも救済ということが普及してきましたから、だいぶやりやすくなっている。戦前はなかなか金を貸しませんでした。儲かっているところでも貸さんぐらいですわ。何か事があったときにはなおさら貸しません。しかし、私は行きづまったときに銀行から金を借りたことを覚えています。こちらの意気ごみですな。「こういう大失敗したから、金貸してんか」と言うたなら、「そんな大失敗した会社に金貸すのはかなわん」となります。これは常識です。
しかし大失敗したときに、こういう一つの真理をつかんだ、真理というとえらいたいそうですが、一つの行き方をつかんだと、諄々とその話をしていくと、“この人はたいへん進歩したな。今までは気がつかなかったことを、気のついた人になったな。これなら金を貸してもいいだろう”こう考えて貸してくれるだろうと思います。
『松下幸之助発言集1』(1960)