武田信玄がこういうことをいっている。
「負けるべきでない合戦に負けたり、亡ぶはずのない家が亡ぶのを見て、人はみな天命だという。しかし自分は決して天命だとは考えない。みなやり方が悪いからだと思う。やり方さえよければ、負けるようなことはないだろう」
戦えば必ず勝ち、戦国時代最高の名将とうたわれた信玄のことばだけに、非常な重みがある。
たしかに、何ごとにおいても、われわれは失敗するとすぐに「運が悪かった」というようないい方をしがちである。それは何も今日の人間だけでなく、“勝負は時の運”とか、“勝敗は兵家の常”といったことわざもあるくらいだから、昔からそういう考えは強かったのだろう。しかし、そういう考えはまちがっていると信玄はいっているわけである。敗因はすべてわれにありということだろう。きびしいといえばまことにきびしいことばである。
『指導者の条件』(1975)