老子のことばに、「侯王がよく道を守れば、すべてのものごとはおのずとうまくいくだろう」という意味のものがあるという。老子のいう“道”とは、いわゆる道義道徳ではなく、もっと広い“自然の摂理”というか“天地自然の理”といったものだそうだから、要するに、指導者が天地自然の理に従った行ないをすれば、すべてがうまくいくという意味であろう。
これは全くその通りだと思う。この宇宙には大きな天地自然の理というものが働いており、万物はそれに従ってそれぞれの営みをしている。人間もその例外ではない。ただ人間は他の万物にはない知恵才覚に恵まれており、それによって、すぐれた文明、文化というものを築きあげてきている。
そうした文明、文化というものは、ちょっと考えると人間が自分の力だけでつくりあげたもののようだが、実際はそうではない。もともと大自然の中に仕組まれていたというか存在していたものをみつけ出し、活用したにすぎないのである。いいかえれば、天地自然の理に従い、これを人間の共同生活の上に具現したものが文明であり、文化なのである。
『指導者の条件』(1975)