人間はえらいものである。たいしたものである。動物ではとてもできないことを考えだして、思想も生みだせば物もつくりだす。まさに万物の王者である。しかしそのえらい人間も、生まれおちたままに放っておいて、人間としての何の導きも与えなかったならば、やっぱり野獣に等しい暮らししかできないかもしれない。
『道をひらく』(1968)
解説
人間は「えらいものである」「万物の王者である」。松下幸之助の哲学が凝縮されたこの簡潔な言葉の萌芽を「PHPのことば」(1951年9月発表)にみることができます。そこには“まことに人間は偉大な存在である”という、幸之助の“人間宣言”が掲げられています。
そしてのちの1972年8月、幸之助は自らの思想・哲学を集大成した『人間を考える』を刊行、“新しい人間観の提唱”文を発表します。その文章のなかにも“まことに人間は崇高にして偉大な存在である”という一文がみられます。
幸之助いわく、『人間を考える』という本は“水のようなもの”。読む人によってさまざまに受けとることができ、さまざまに生かすことができるものと考えたのでしょう。そのせいか、誤解されかねない(新しい人間観の提唱文では「王者」「偉大」「支配」「君臨」といった)表現もあえて使って、自らの人間観の真意をストレートに伝えようとしています。
たとえば王者は覇者でなく、偉大は尊大ではないのですが、支配・君臨などは社会一般で使われる字義とは異なる(その意を、万物に従いつつ万物を導き生かすこととした)ため、注釈をつけています。発表前、そうした本意が伝わるのかどうか、幸之助自身少なからず心配したようです。その結果はというと、賛否両論あれど多くの方々に支持され、時代性もあってか、とくに20代、30代の若者に広く読まれる著作となりました。
学び
人間はえらいものである。
万物を支配する王者である。