「松下幸之助経営塾」は、幸之助の理念に学ぶ10カ月間の経営セミナーとして、開講以来のべ300名以上の卒塾生を送り出している研修プログラムです。この塾は「どこをめざし、何を学ぶのか」――担当講師より、お話しさせていただきます。今回のテーマは「自然の理法」です。
「自然の理法」……むずかしいところが魅力的?
はじめまして。「松下幸之助経営塾」全6回のプログラムのうち、第2回の講義を担当する講師の川上恒雄です。当経営塾に関心をもっていただき、まことにありがとうございます。
当経営塾第2回のテーマは、「本質を知る~生成発展は自然の理法~」。
読者の皆様によっては、「本質」「自然の理法」といった言葉から、近づきがたい内容を想像されるかもしれません。
一般的なセミナーであれば、ここで「ほんとうはやさしくて役立つ内容なのです」と申し上げたいところですが、ウソをつかないのが私の信条。
第2回で取り上げる講義内容について、「むずかしい」「難解だ」という声が、受講されている塾生の皆様からよくあがっているのは事実です。
しかし、「そのむずかしいところが魅力である」とおっしゃる塾生の方もおられます。
そもそも当経営塾は、入学試験問題の解答のような一義的な答えを導くトレーニングをする講座ではありません。
経営者みずから高い志を立てるための“お手伝い”をするのが、当経営塾の役割です。
“お手伝い”には努力するけれども、基本的には塾生の皆様に「自学自修」の姿勢を身につけていただきます。
とくに「みずから考える力」を養っていただくことに力を入れています。
そして現実に、多くの塾生の皆様が、ご受講回数を重ねるごとに、いつのまにかおのずと考える習慣を身につけておられます。
だからこそ、「むずかしいところが魅力的」という声が塾生の中から出てくるのでしょう。
松下幸之助の思索の場を歩く
とはいえ、第2回の中心テーマである「自然の理法」については、塾生の皆様にとって「むずかしい」というよりも、「むずかしすぎる」面があるようです。
かつて「自然の理法」について、ある塾生の方から「それが経営の何に役だつのか?」という質問が出たことがありました。
たしかに「自然の理法」という概念に初めて触れて、それが経営や商売と何の関係があるのか、不思議に思われるのも無理はないでしょう。
そんなとき、我われ講師が塾生に向かって「ご自身で考えてください!」と指示するのは、ちょっと無責任かもしれません。
そこで当経営塾では、「考えるための場」をきちんと設けております。
たとえばこの第2回では、塾生の皆様に松下真々庵(しんしんあん)をご案内いたします。
京都の東山山麓、南禅寺の近くにある松下真々庵は、松下幸之助が松下電器産業(現パナソニック)の社長から会長に退いたのを機に、それまで一時中断していたPHPの研究活動を再開するために求めた一邸です。
松下幸之助は、この松下真々庵で、庭を散策しながら思索にふけったといいます。
塾生の皆様にとっても、「自然の理法」について深く考えるには格好の場となることでしょう。
頭で考えるだけではなく、五感を総動員して、庭園空間に存在するありとあらゆるものを全身で受けとめ、感じてみれば、「自然の理法」の何たるかが、見えてくるかもしれません。
「宇宙根源の力」を感じる
「それでも『自然の理法』がよくわからない」という方は、松下真々庵の庭の一隅に設けられた「根源の社(やしろ)」を訪れるといいでしょう。
松下幸之助は生前、この「根源の社」の前で、万物の根源たる「宇宙根源の力」に感謝の念をささげることを習慣としていました。大阪のパナソニック本社「創業の森」にも設置されている「根源の社」の設立趣旨には、以下のような文章が記されています。
「宇宙根源の力は、万物を存在せしめ、それらが生成発展する源泉となるものであります。その力は、自然の理法として、私どもお互いの体内にも脈々として働き、一木一草のなかにまで、生き生きとみちあふれています。私どもは、この偉大な根源の力が宇宙に存在し、それが自然の理法を通じて、万物に生成発展の働きをしていることを会得し、これに深い感謝と祈念のまことをささげなければなりません。その会得と感謝のために、ここに根源の社を設立し、素直な祈念のなかから、人間としての正しい自覚を持ち、それぞれのなすべき道を、力強く歩むことを誓いたいと思います」(文中改行略)
松下幸之助は、人間を含む万物おのおのに固有の力が、「自然の理法」として与えられていると考えていました。
そしてその力が、生成発展の源であると述べています。
人間は、「自然の理法」として与えられたこの力を活用することで、真の繁栄の実現に近づくことができるといいます。
「素直な心」と「自己観照」
この「宇宙根源の力」や「自然の理法」と人間との関係はやや複雑なので講義で説明しますが、それが実際の経営においていかなる意味を持つのかについては、当経営塾第3回以降のテーマとなります。むしろこの第2回では、松下幸之助が、「自然の理法」に則した正しい判断や決断ができる人になるために求め続けた「素直な心」の大切さ、そしてその大切さを忘れぬよう心がけた「自己観照」について、学びを深めます。
学ぶ内容はちょっとむずかしいけれど、考えることが楽しくなる「松下幸之助経営塾」。
皆様のご参加をお待ち申し上げております。