「松下幸之助経営塾」は、幸之助の理念に学ぶ10カ月間の経営セミナーとして、開講以来のべ300名以上の卒塾生を送り出している研修プログラムです。この塾は「どこをめざし、何を学ぶのか」――担当講師より、お話しさせていただきます。今回のテーマは「経営革新」「日に新た」です。

経営セミナー 松下幸之助経営塾

経営はつくっていくもの

こんにちは。松下幸之助経営塾に関心をもっていただき、まことにありがとうございます。第5回の講師を担当する渡邊です。

第5回のテーマは、「経営を革新する~日に新た~」です。

いきなりですが、松下幸之助は面白いことを言っています。「時代をつくっていく経営」といったことをいうのです。

松下幸之助の自著『経営のコツここなりと気づいた価値は百万両』の一節に、次のような文章があります。

「時々刻々、非常に変化が激しい今日の世の中においては、何年も同じことをやっている会社は落伍してしまいます。ですから、その刻々に変わっていく時代についていくというのが、今日における一つの経営法だと思います。また、そこからさらに一歩進んで企業が時代に先がけて、新しい時代をつくっていくという経営法もあると思います。そのどちらかをやらなければいけません。そうでないと、たとえ生き残ることはできても、発展は望めないのではないでしょうか。そしてその二つのうち、今はやはり時代をつくっていくということがより大事だと思います」

そうなのです。松下幸之助が行なった経営の業績では、日本初といわれるものがいくつかあります。たとえば、週休二日制も幸之助が初めて日本の会社に導入したといわれています。誰に言われたわけでもなく、幸之助は1960年、「五年後に週休二日制を導入する」と突然、宣言するのです。このことは、「時代をつくっていく経営」そのものだとは思われませんか。

松下幸之助

自分の頭で未来を考える

幸之助は週休二日制導入の理由を、幸之助はある学者との対談で、こう語っています。

「五日制(週休二日制)が望ましいというぼくの議論には前提があるんです。その前提を忘れて五日論者だといわれると迷惑します。ぼくはいつも思っているんですが、日本の産業もこれからますます生産性が向上してくるでしょう。どの工場も精巧な機械を配置して仕事をせねばならなくなる。そうなってくると労働者は勤務中1分1秒のすきもなく、8時間なら8時間を全精神を集中してやらねばならぬ。だから非常に疲労が出てくる。この疲労回復のために、一日余分に休養を要するだろう。そこで週五日にしなきゃいけない」
 
こう自信と確信をもって述べているのです。いかがでしょうか。
これからのビジネスがどうなっていくのかを考え、先手を打つ。幸之助はそういう経営者でした。けれども、これは簡単にマネできるものではありませんね。
 

「日に新た」とは

けれども、思考の訓練というべきか、心がけというものを鍛えれば誰もが変わるはずです。

幸之助がよく口にしていた言葉に、「日に新た」という言葉があります。また、経営方針発表会などでは、毎年、「本日開店の心持ちで」といっていました。

昨日と今日はすでに違うはずです。日進月歩という言葉もあるとおりで、昨日までは非常識だったことが一日にして常識になったり、あるいはいつしか誰も気づかないうちにしきたりが変わっていたりするのが世の中というものです。油断していると気づきませんね。幸之助は、それらはすべて、生成発展しているのだと考えていました。

それは世の中、社会を見つめる幸之助の一つの社会観だともいえるでしょう。同じような感覚を持てというわけにはいかないかもしれませんが、幸之助はそうした、人間や社会に対しての考え方、すなわち自らの人間観や社会観を確立し、それでもって自分の事業観を持つことが重要だと考えていました。

この回では、幸之助が行なった様々なイノベーションや重要な決断をケーススタディとして紹介し、それを分析し、論じ合うという作業をします。一見単なる思いつきに見えるような事実の背景には、幸之助の独自の考え方があることがわかるはずです。

そうした気づきがこの回で、学ぶことができれば最高だと思います。時代の変化が表れてから対処するという以上に、自分の「観」が優れていれば、世の中を先取りした経営もできるのですから。そうなれば、知らぬ間に革新、イノベーションを起こしていることになるはずです。

素直な心で「何が正しいか」を問い直す

素直揮毫

それともう一つ重要なキーワードに触れておきましょう。それは第2回で紹介した「素直な心」です。この言葉は実は経営塾全編において求めていくべき大切な心がけです。経営の現場は情報だらけで本当に何が重要なのかが容易に分からないことがたくさんあります。その中で、「何が正しいのか」を誤りなく把握するには、くもりのない物の見方が求められます。それが「素直な心」なのです。それが経営の現場で生きるとき、革新が日常的になされるはずです。

極端な言い方になりますが、経営者は時として昨日までの自分を否定しなければいけないこともあります。そうした柔軟さを持ち合わせるには「素直な心」が必要です。そうした心の準備があなた自身の実践的な経営哲学を養っていくのです。

抽象的なことを申し上げていますが、安心してください。この回では、幸之助の具体的な経営の事績を追いながら、経営の本質を考えるという作業をします。このことは、本経営塾の一番の学びどころであり、楽しい時間になること受け合いです。経営を学問やスキルによってこなすのとは別次元の、どちらかといえばアート、総合芸術作品を作っていくような感覚に感じるのではないでしょうか。

経営塾は「人」から学ぶところを大きな意義としています。同志の塾生たちとの学びの場、ぜひ経営塾にご参加ください。お待ちしています。

経営セミナー 松下幸之助経営塾

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