「松下幸之助経営塾」では、毎回、すぐれた経営理念によって活躍中のトップリーダーを特別講師にお迎えしています。その経営実践に裏打ちされた講師による特別講義は、当セミナーの魅力のひとつとなっています。そこで今回は、特別講義の内容の一端をご紹介し、その魅力に迫ります。
普遍的に成功を可能とするイノベーションの鉄則
講師の渡邊です。今回は経営塾のカリキュラムのなかで、実践経営の何たるかを学ぶに最高の時間、特別講義の一端をご紹介しましょう。
「松下幸之助経営塾」でもっともコアな特別講義といえば、やはりこの方、佐久間曻二講師です。
佐久間講師は元松下電器の営業担当副社長を務めましたが、その後、当時、単年度赤字200億円、累積赤字770億円という絶望的な状況にあったWOWOWの再建を託されます。
そして、なんとこのWOWOWの赤字を3年で解消する実績を上げるのです。
その劇的なイノベーションのシナリオは、すべて松下幸之助の知見を、佐久間氏なりに考えたストーリーに従ったものでした。
ところで、経営塾への入塾を検討するにあたり、「松下幸之助の手法が、いまの自分の会社の経営に通用するのか」という懸念を持たれる方がいらっしゃるかもしれません。
松下幸之助は製造業の経営者であり、電化製品をドメインとしていました。
世の中には山ほど業種があります。
その多様さを思えば、いくらその実績は充分なものとしても、それ以外のドメインにも通用するのかどうかを疑問に持つ方がいても、それは仕方がないかもしれません。
しかし、そうした疑問は佐久間講師の講義を聴けばいっぺんに吹き飛びます。
佐久間講師は電化製品を販売する会社の営業担当副社長でした。
にもかかわらず、財界の鞍馬天狗といわれた日本興業銀行の中山素平氏の推薦で、まったく畑が違う新興の衛星放送会社の経営者を引き受けることになりました。
いわば「プロ経営者」です。
このとき佐久間講師は、WOWOWの再建を「半年でやる」という目論見があったそうです。
経営の本質を見きわめれば、手が打てる。そう考えたというのです。
まず、佐久間講師は実際に社長就任前に50人の関係者を訪ね、経営不振の本質を整理します。
そして、経営のイノベーションのシナリオを描き、予定どおり半年後には、改革路線を軌道に乗せることに成功するのです。
佐久間講師は、WOWOWの再建手法は「松下幸之助から学んだこと」だと言います。
この講義を聴けば、成功の要諦、経営の原理原則が確かにあるということを、みなさまも実感できるはずです。
経営理念の大切さ
では、どんな講義なのか。ここで、佐久間講師の講義の一部を再録いたしましょう。
「私は松下電器を退職後、1993年に衛星放送会社のWOWOWの社長に就きました。そのころの同社の経営は危機的状況にあり、1992年度の売上が346億円に対し、赤字が200億円、累積損失が770億円。資本金は、7回増資して、410億円でした。
WOWOWで最初に驚いたのは、経営理念がなかったことです。正確にいうと、会社案内には書いてあったのですが、よく読むと、(当時の)郵政省が求めて経団連(経済団体連合会)が設立した企業だと書いてある。つまり、郵政省と経団連がバックについているということを書いているのです。これが経営理念と言えるでしょうか。『赤字になってもバックがついているから大丈夫』という甘えが、社員や関係者のあいだに出てきてしまいます。
当時のWOWOWは、社員206名のうち160名が他の108社から来た社員でした。役員も皆、他社からの出向で、当初は親会社のほうを向いていましたね。
私が社長になっても、家電の“ハード屋さん”が畑違いの“ソフト屋さん”に来たとみられたのか、信頼されていないような感じでした。だから、経営理念を制定しようと呼びかけてもうまくいかないと思ったのですが、少なくとも共通の目標をめざして仕事をする必要があったので、まずは経営再建を目標に掲げました。
もっとも、日常活動の面で織り込むべき事柄、たとえば『お客様大切の心』とか、お得意先との『共存共栄』という考え方は、しつこく『基本の考え方』として説きました。それが定着すれば、自然に経営理念ができあがっていくとも思ったのです。
再建目標については、1年目に赤字を2ケタまで減らし、2年目に1ケタ、3年目にゼロにすると宣言しました。実際は、1年目が98億円の赤字、2年目は赤字がぐんと減って5億円、3年目には64億円の利益が出たのです。こうして実績を出した結果、私を信頼してくれる空気が社内に生まれてきたので、経営理念の作成にとりかかりました。理念はトップがつくるものだと思っていたからです。(以下、略)」
持続可能な組織をつくるための最終ゴールとは
いかがでしょうか。
講義のこのくだりから分かることは、佐久間講師がWOWOWを改革しようとし、そして結果を出したところでも、それはゴールではないとしていたことです。
本来なら、よい経営理念を策定し、それに準じて改革を指揮する。それが一番の理想の方法、王道だったのでしょう。
けれども、佐久間氏はそうした空気を醸成することはできませんでした。
というのも、社長就任の前から、「松下電器の経営理念を持ち込まないでほしい」というアレルギーを見せる敵対的社員すらいたようです。
それで、佐久間講師はとにかく経営再建することを先決としました。それが見事に功を奏して、改めて経営理念の策定に取り組んでいます。
ともすれば、これだけの改革を成し遂げたことばかりがクローズアップされがちですが、実際のゴールはやはり経営理念を策定することにあったのです。そして佐久間講師は、これを当然のこととして述べています。
なぜか。それはよい経営というものは持続されなければならないからです。
郵政省がつくった会社だから、経団連が味方だから存在させるべき会社ということではなくて、公共のための良質な番組をつくる、社会の公器としてのWOWOWの価値が定義づけられ、それはどのような経営の下になされるのかを、高らかに謳わなければならない。
そう考えたからなのです。
佐久間氏による特別講義では、経営のめざすべき原則がいかに大切かということを、自身の貴重な体験を紹介しつつ語られていきます。
「もっと知りたい!」という方のために、今回、その要旨を抄録した資料をご用意しました。
ただ、その本質をつかみ、経営の原理原則を自得するためにも、実際に佐久間講師の講義を受け、納得のいくまで議論を交わしていただきたいと思います。
「松下幸之助経営塾」では毎回、このような貴重な体験談が特別講義として用意されています。
質疑応答を含めたこの150分間は、たいへんな宝物となることでしょう。
みなさまの入塾を、心よりお待ちしております。