「夏はヒンヤリ 冬はぽかぽか」。そんな高性能住宅を展開する会社が福岡県福岡市にある。県内トップクラスの地場ハウスメーカーとして定評のある健康住宅だ。創業から今年で22年。畑中直社長(「松下幸之助経営塾」卒塾生)を筆頭に、今でこそ安定した経営体制を築いているが、10年前までは浮き沈みの激しい会社だった。どのようにして谷底から這い上がってきたのか。その道程の中で、松下幸之助経営塾での学びはどのように活かされたのか。

「正道を行く」理念で地域にユートピアをつくる~健康住宅株式会社・畑中直代表取締役(前編)からのつづき

<実践! 幸之助哲学>
住宅表彰連続受賞の秘密は"学びの文化"にありーー後編

「正道を行く」経営理念で社員のモチベーションがアップ

社内環境が好転してからというもの、業績は回復。不良債務もなくなり財務が安定した。創業からずっと続いていた暗いトンネルを、ようやく抜けることができた。
そんな時に出合った松下幸之助経営塾。迎えた受講初日に、PHP研究所京都本部ビルの会場で他の受講生一四名と顔を合わせる時、畑中さんは非常に緊張したという。
「皆さん、それなりの会社の社長やご子息です。レベルの高い人ばかりなんだろうなと、最初は少し身構えました。でも、いざ話してみると、どの方も人柄がよくユニーク。健全経営の企業のリーダーは天狗にならず、常に謙虚に学んでいるのだということも実感しました」

経営塾では、実際に松下幸之助から教えを受けた経営者の話を聞く機会がある。畑中さんは、生前の松下が周囲にどのように接していたかを知り、ますます憧れを抱くようになった。
「どの経営者も、高い社会的地位のある方ばかりでした。そんなすごい方々が、若い頃に松下さんに叱られたことを自慢気に語るんです。私も松下さんのように、周囲に慕われる経営者になりたいと強く思いました」

経営塾での学びは、畑中さん自身だけでなく、健康住宅の理念にも大きな影響を及ぼした。畑中さんはこれまでに三度、経営理念をつくり変えている。最初のつくり変えは経営塾に出合う以前の、今から六年前。
「私たちは『お客様への感動の提供』を経営の機軸とし、社員全員の『物心両面の幸せ』を追求します」
とし、顧客だけでなく、身近にいる社員を大切にするという考え方を盛り込んだ。

だが数年後、この理念をあらためて眺めて、畑中さんはあることに気づいたという。
「『社員全員の物心両面の幸せを追求します』という文章だと、社員を幸せにする主体が健康住宅になるニュアンスが強くなってしまいます。それまで私は、自分一人で頑張るつもりだったのでしょうね。でも、あるべき姿はそうではない、社長だけではなく、全社一丸となってみんなで取り組みたい、と思いました。そこで後半部分を『社員全員で物心両面の幸せを追求します』に変えることにしたのです」
二度目の改定だった。

そして三度目の改定は、まさに経営塾で学んでいる最中に行なわれた。既存の理念の前に「正道を行く」という言葉をつけ加えたのだ。
「正道とは、文字通り正しい道。人として正しい生き方をするという意味です。つまり、世のため人のために嘘偽りなく、決意を持って行動することです。仕事をする上で最も大切なことだという確信がありました」

二〇一九年八月一日、新しい理念を発表した時、社員には、物心両面の幸せの源がお客様であることを忘れないこと、仕事があることに感謝すること、きちんと納税し社会貢献するためにも、お客様からは適正な利益をいただくこと、などを伝えた。
たったひと言、「正道を行く」を理念に加えただけだが、会社には嬉しい変化が起こったという。迷った時に立ち返る「正道」という指標ができたことで、社員のモチベーションが上がったのだ。今、ほとんどの社員が新しい理念に共感してくれているという。
「理念は暗記するだけではいけません。当社では毎週金曜日の午前十時から一時間、オンラインで『社長塾』を開催し、理念に生きる大切さと喜びを社員と共有しています」

学びの文化、つながる文化を根づかせ目指すは「ユートピア構想」

健康住宅の社員全員が持ち歩いている冊子がある。「K-J HEART」と呼ばれるものだ。経営理念、部門別の方針、職級や給与体系、売上目標から災害時の避難場所まで、健康住宅の社員が踏まえておくべき情報が網羅されている。二、三年おきに改訂しているが、このほど携行しやすいよう冊子の形にした。

社員への教育に力を注ぐ健康住宅では、「社長塾」のほかにも数多くの学びの場を用意している。毎日の朝礼や社内勉強会がそうだ。会社の理念の読み合わせを行なったり、あらかじめ月刊誌『PHP』を読んできて、みんなで感想を述べ合うなど、仕事に向かうための思考を学んでいる。
また、勉強ばかりでなく、社内イベントも数多く開催し、人とのつながりや絆を深めている。一年半に一度の大々的な社員旅行をはじめ、毎年恒例のお花見、BBQなど、楽しくコミュニケーションを取れる企画が目白押しだ。
なかでも、健康住宅で家を建てた施主、社員の家族、協力会社を招いての「感謝の集い」は非常に盛大。家を建ててから十年以上経つ施主も参加するため、まるで同窓会の様相を呈するという。創業二十周年記念として行なった感謝の集いには、なんと一二〇〇人もの施主が参加した。

「社内がギスギスしていた頃は、住宅が完成すれば顧客とのつながりもほぼ終わっていました。しかし今は逆に、つながり続けることに焦点を当てています。イベントでは、施主の皆さんに喜んでいただくのはもちろん、社員自身が楽しむことも大事。二度とあのような辛い時代に戻りたくないという思いも強くあります。つながり続けることで、施主の方々から新しいお客様を紹介されることもありますが、それは幸運な副産物のようなものと思っています」

かく言う畑中さんだが、実は将来実現させたい一つの夢がある。一〇〇パーセント施主の紹介で受注し、その輪を地域に広げるという「ユートピア構想」だ。これなら紹介という信頼をベースにすることができ、広告宣伝費がかからない分、より品質の高い家づくりが可能となる。また、やがて社員が定年を迎えた時、その子供や孫が健康住宅に入社する流れができれば地域の雇用にも貢献できる。

「夢のような話と思われるかもしれませんが、今でも施主様からのご紹介受注が半数なので、決して不可能ではないと思います。もし実現できたら『よい顧客がよい顧客を呼ぶ』好循環が生まれます。健康住宅を中心にみんなで一つのコミュニティをつくるイメージですね」

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過去に家を建てた施主も招いての「感謝の集い」はさながら同窓会の様相

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冊子になり携帯しやすくなった「K-J HEART」

地元の人気企業になってなお学び続ける

何度も危機を乗り越えてきた健康住宅は今、ほとんど離職する社員のない会社に生まれ変わっている。「働きがいのある会社ランキング」(Great Place to Work®選)でも上位にランキングされる。採用募集には毎年一〇〇人を超える応募があるなど、地元の人気企業へと発展した。端から見れば大成功しているという感があるが、畑中さんは、これにあぐらをかいてはいけないと兜の緒を締める。
「いい会社になってきているとは思いますが、安心はできません。安心した途端に坂道を転がり落ちる経験をしていますから」

事業承継についても考え始めている。現在、後継候補を含めた幹部社員の育成に余念がない。
「社員が私を頼りにしてくれているのはありがたいことですが、その分、自分がリーダーだという自覚が薄いと感じることもあります。それがこれからの課題でもあります」

松下幸之助経営塾を受講したあとも、自身の学びに終止符を打つことはしていない。よい社員を育て、急速に変化する世の中で会社を存続させるために、トップは常に学び続けなければいけない、と言葉に力を込める。
学び続ける社長の姿に、社員はどのような反応を示しているのか。畑中さんは、「喜んでくれていると思う」と自己分析する。
「他の経営者を見ていると、学ぶ人には本当に立派な方が多いと思います。そういう人たちと交流すれば、おのずと自分を律することになります。学び、成長し続ける社長を社員が誇りに思い、何より信頼してくれたら嬉しいですね」
常に学び続け、それを結果へと結びつけている畑中さん。松下幸之助経営塾で得た気づきが、今後どのようなかたちで花を開かせるのか、期待は膨らむばかりだ。

(おわり)

経営セミナー 松下幸之助経営塾




◆『衆知』2020.11-12より

衆知20.11-12



DATA

健康住宅株式会社

[代表取締役社長]畑中 直
[本社]〒814-0104
    福岡市城南区別府5丁目25-21
TEL 092-846-3000
FAX 092-841-8500
創業...1998年
事業内容
 高性能住宅・自然素材住宅の設計・施工・管理、及びそれに伴うアフターメンテナンス全般