トヨタ自動車の高級車レクサスの販売でこの10年間、最上位の業績をあげているレクサス星が丘。創業者の山口春三さん率いるキリックスグループ7社のうち、今年(2016年)1月に三男の山口峰伺さん(「松下幸之助経営塾」塾生)が社長に就任したネッツトヨタ東名古屋が運営している。同グループは、日本のモータリゼーションの黎明期である1960年代から、自動車関連事業に新しい風を吹き込んできた。両氏への直接取材をもとにその強さの秘密を探る。

 

「最高のおもてなし」は“本物の心”から(1) からのつづき

 

<使命に生きる>
「キング・オブ・レクサス」を生んだ顧客目線の徹底――part2

中古車オープン展示が評判に

春三さんは自動車整備の面でも、さっそく持ち前の発想力を発揮する。
当時の修理方法は、壊れた箇所を特定したら、その部品を取りはずして修繕し、元に戻すのが一般的だった。ただ、このやり方は時間がかかる。一カ所を修理するだけでも、半日から一日、あるいは二日もかかることがあった。そこで、修理に出すのではなく、「ヤスク、ハヤク、スグレタサービス」の方針の下、価格・時間・技術の成果向上を図り、現在のリビルト方式であらかじめストックしておいた部品と交換できるようにした。これなら部品の脱着だけなので、半日から一日かかっていた修理が、ものによっては十五分程度で済む。革命的な時間短縮だ。

 

時間を大幅に短縮しただけではない。整備時間に応じて請求する時間工賃も下げることができた。工場の前では、修理を依頼したい車が列をなして待つ光景も見られるようになった。それから会社は急成長を遂げていったのである。
ただ、整備や修理だけでは成長に限界があるとの思いが春三さんにはあった。もっと大きな発展が望めないものか。そこで一九六二(昭和三十七)年、中古車販売部門を立ち上げる。東京オリンピックに向けて高速道路の建設が進み、自動車の普及に加速がつき始めていた。中古車販売でも、春三さんのアイデアがさえる。

 

当時、販売用の中古車は、盗難防止のため、倉庫内や金網で囲まれた場所に置かれていた。顧客はそんなところで車選びをしていたのである。購入が決まると、故障があれば修理の上、納車されるというシステムだった。
これでいいのかと思った春三さんは、広いオープンスペースに車を並べて販売することを思いつく。それだけでなく、修理や整備、クリーニングも済ませ展示することにした。心配された盗難については、展示場の周囲にポールを立ててチェーンを張ることで対応。これが日本初の中古車オープン展示だといわれている。たちまち評判を呼び、中古車販売業も大きく伸びた。

 

この勢いに乗り、一九六四(昭和三十九)年にはカーリースも始めた。一定の期間・金額で自動車を貸し出すという事業だ。自動車保険や税金、メンテナンス費用まで、すべての経費込みで貸し出されるため、法人利用に適している。このカーリース事業も、国内では名豊トヨペットサービスが先駆けといわれるからすごい。

 

アメリカでの視察がきっかけだった。カーリースが広く利用されていることを知り、その手法を学んで日本に導入したのである。一九七〇(昭和四十五)年にはリース部門を切り離し、名豊リース(現キリックスリース)を設立した(なお、その翌年には、キリックスグループの前身である名豊グループを結成する)。
しかし、当初は中古車販売のようにうまくはいかず、苦戦する。そもそも「リース」という言葉の意味を説明しなければならないほど、日本ではカーリースに対する認識がなかなか深まらなかったのだ。

 

ところが思わぬことに、深刻な不況が飛躍へのきっかけとなる。一九七三(昭和四十八)年の石油ショックで企業が合理化に取り組むようになり、リースに対する法人需要が高まったのだ。以降、全国の自動車整備会社と代理店契約を結ぶようになり、カーリースはグループ事業の柱の一つとして大きく成長していった。

 

新車販売に進出、サービスに工夫

トヨタ自動車にいくつかの販売チャネルがあるのをご存じの方も多いだろう。一九八〇(昭和五十五)年、従来からあったトヨタ店、トヨペット店、トヨタカローラ店、トヨタオート店(現ネッツ店)に加えて、トヨタビスタ店(現ネッツ店)というチャネルが新設された。その際、大きな実績を築いてきた名豊グループに白羽の矢が立つ。その第一号店をオープンすることになったのだ。いよいよ新車販売への挑戦が始まった。それに伴い、トヨタビスタ東名古屋(現ネッツトヨタ東名古屋)を設立する。

 

ビスタ店のオープンに際して、春三さんは「お客様中心の価値づくり」というテーマを定めた。のちのレクサス星が丘につながる販売手法、ノウハウの基礎が、このときすでに芽吹いていたといってもいいだろう。
春三さんは、従来の訪問販売を主とするやり方ではなく、店舗での販売を重視した。ショールームに複数の出入り口を設けて気軽に入りやすい構造にしたり、屋外のオープンスペースに屋根を設置して新車を並べ、見たり触ったりできるようにしたのだ。週末の土日を営業日にしたのも、当時としては珍しいことだった。

 

また、販売した新車の半年点検とエンジンオイル交換を無料とし、多くのリピーターをつかんだ。そのほか、演奏会や映画上映会をはじめ種々のイベントでお客を楽しませることにも徹した。こうした数々の取り組みは当初、一部のライバル店から白眼視される。しかし、数字はウソをつかない。ビスタ店の中でも特に優秀な売り上げ成績を記録したのである。

 

「最高のおもてなし」は“本物の心”から(3) へつづく
 

経営セミナー 松下幸之助経営塾

 

◆『衆知』2016.5-6より

衆知2016.5-6

 

DATA

キリックスグループ

[社主]山口春三(しゅんぞう)
従業員...約1,000名
資本金...4億5,000万円
グループ会社...キリックスリース(株)、(株)名豊トヨペットサービス、(株)名豊保険、名豊通商(株)、(株)名豊本社、ネッツトヨタ東名古屋(株)、(株)キリンダム

ネッツトヨタ東名古屋株式会社

[会長]山口茂樹
[社長]山口峰伺(みねし)
〒460-0006
名古屋市中区葵1丁目27番29号
TEL 052-935-6111(代表)
事業内容...トヨタ車・レクサス車・フォルクスワーゲン車の販売および整備、保険代理業