ビジネスのスピードが速いIT業界で、システムインテグレーション(SI)の独立系企業として19年間にわたり黒字経営を続けているシステムエグゼ。2016年1月に創業者の佐藤勝康さん(現・会長)から経営を引き継いで社長に就任した酒井博文さん(「松下幸之助経営塾」塾生)は、「顧客企業との直接契約や自社製品の開発に力を入れることが社員の成長となり、結果として会社の経営を安定させる」と言い切る。苛烈なIT業界で勝ち続ける理由は、武骨ながらも創業時から決してぶれることのない社員第一主義にあった。

 

<使命に生きる>
群雄割拠のIT業界で勝ち続けてきた理由とは――part1

こんな後継、聞いたことがない

市場ニーズの変化や開発競争のスピードが著しく、大手から若いベンチャー企業まで群雄割拠するIT業界において、一九九八(平成十)年の創業以来、十九年間連続で黒字経営を続ける堅実な企業がある。社員数約五〇〇名でシステムインテグレーション(SI)事業を展開するシステムエグゼ(本社・東京都中央区)だ。

 

システムインテグレーションとは、企業の情報システムの企画、設計、開発、構築、保守、運用などを一貫して請け負うサービス。この業態は元々企業のアウトソーシングとして発展した経緯から、ハードウェアを製造していたコンピュータ会社の系列や、大手企業グループの情報システム系列として派生した企業が多い。そうした“縁”が当たり前の世界で、システムエグゼは親会社を持たず、M&Aもしない独立系として事業を拡大してきた。

 

下請けではなく、顧客企業と直接契約を結ぶプライム・コントラクタ(以後、「プライム」と表記)としての受注に力を入れるのが、システムエグゼのこだわりである。二〇一五(平成二十七)年末時点の売上高は六五億九〇〇〇万円。このうち、八割近くがプライムとしての仕事だ。二〇億円を超える大型案件も一括受注し、無事に本番稼動させ、結果を出している。自社で開発したデータベースやクラウド関連のパッケージ製品を数多く展開しているのも、中堅規模のIT企業としては異例である。

 

そんな企業をトップとして四十三歳の若さで率いているのが、システムエグゼ代表取締役社長の酒井博文さんだ。今年一月、創業者の佐藤勝康さん(現・会長)から経営を引き継いだ。前社長の佐藤さんは酒井さんの社長就任と同時に取締役を退任して代表権のない会長となり、経営の一線から退いている。現在は、週に二、三回顔を出して酒井さんと経営談義する、会長とはいえ相談役のような立ち位置だ。

 

この社長交代は、周囲をかなり驚かせたらしい。酒井さんは、「私は創業メンバーでないどころか、社歴が浅く、年齢も若い。ましてや血縁関係がない者がカリスマでもある創業者から経営を引き継いだのだから、こんな後継、聞いたことがないとさえ言われました」と苦笑する。

 

本人さえも逡巡する経緯で社長に就いた酒井さんとは、どんな人物なのか。酒井さんは一九七二(昭和四十七)年生まれの広島県出身。実家は建設会社を経営しており、松下幸之助を敬愛する父親によって幼い頃からおのずと経営学を叩き込まれていたが、家業を継がず、世界を夢見て家を飛び出した。奇しくも佐藤さんがシステムエグゼを設立した一九九八年に日本大学を卒業し、現在のNTTデータビジネスシステムズに入社。その後、日本オラクル、日本IBMといった国内外トップ企業の数々をエンジニアたちの責任者であるプロジェクトマネージャーとしてわたり歩き、二〇〇七(平成十九)年にシステムエグゼに入社した。取締役を経て二〇一五(平成二十七)年に副社長となり、二〇一六年一月に代表取締役社長に就任した新社長である。ちなみに、広島にある実家の建設会社は、酒井さんの弟が継いでいる。

 

創業者の佐藤さんとは、酒井さんが日本IBM時代に共通の知人を通じて知り合った。佐藤さんも酒井さんと同じプロジェクトマネージャーだったことから共通の話題が多く、仕事上の付き合いも高じて親しくなった飲み友達だったという。つまり、酒井さんはIT業界に多い外様(とざま)の転職組である。だが、直接取材を続けるにつれ、酒井さんの経営に対する理念、こだわりが創業者の佐藤さんと深く通じていることに気づかされる。同社にとって、この交代はなるべくしてなったものなのであろう。そんな二人の経営者の共通点にこそ、システムエグゼが苛烈なIT業界で勝ち続けてきた秘密が隠されている。

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ITこそ、人が支える業態

その強さをひも解くため、二人の経営者の思いを交えながらシステムエグゼの歩みを振り返ってみよう。現会長で創業者の佐藤さんが同社を設立したのは、一九九八年。アメリカのシリコンバレーがIT企業の一大拠点として注目され、日本でもIT企業が林立した時期だ。システムエグゼという社名の由来は、英語の“EXE”が持つ、高価な・高級なという“EXE-CUTIVE”、実行するという“EXE-CUTE”と、生業である“システム”を組み合わせたものだ。そこには、「自分たちはシステムで社会に貢献していく」という強い思いが込められている。ただ、佐藤さんが起業に踏み切った理由は、もう一つあった。ソフト開発会社で長年働いてきた佐藤さんは、業績の浮き沈みによっていとも簡単にリストラによる人件費削減が行なわれるIT業界の職環境に苦々しい思いがあったのだ。

 

「社員の成長があってこそ、会社の成長がある」と考える佐藤さんは、「顧客満足度向上=お客様の役に立つ」、「社会に役立つ技術満足度向上=社会への貢献」という企業活動の大前提とともに、「社員満足度向上=社員自身の成長」をシステムエグゼの企業理念に掲げた。「私たちは、社員・お客様・社会の『三方よし』を軸に行動し、たくさんの『ありがとう』を頂ける会社を実現します」と宣言。こうした創業時の理念は、二十年近く経った現在も全く変わっていない。

 

そして、名だたるIT企業をわたり歩いていた酒井さんが、二〇〇七年当時社員数約二〇〇名、売上高二八億円と現在の半分以下の規模だったシステムエグゼに転職することを決めたのも、佐藤さんが最も重要視している社員第一の信念に心底共感したからだった。

 

「ITというのは、何もないところから人の力だけで新しいものをつくり出していく仕事です。つまり、IT業界こそが、他のどんな業態よりも人の力が重要となる。会社というものは、社員が集まっているただの箱にすぎません。人財育成のために経営資源を振り向け、社員の成長の先に会社の成長があるというシステムエグゼの方針に未来を感じ、ともに勝ち抜いていこうと決意しました」

 

社員の成長なくして会社の成長なし(2) へつづく
 

経営セミナー 松下幸之助経営塾


◆『衆知』2016.7-8より

衆知2016.7-8

 

DATA

株式会社システムエグゼ

資本金…4億7500万円
売上高…68億2300万円(2016年度)
経常利益…4億9000万円(2016年度)
従業員数…508名(グループ会社含む568名、2017年4月現在)
主要取引先…出光興産、小松製作所、サンリオ、スカパーJSAT、東京海上日動火災保険、東芝、日本KFC、日立金属、富士重工業、マニュライフ生命保険、三井住友海上火災保険、三井不動産ほか