ビジネスのスピードが速いIT業界で、システムインテグレーション(SI)の独立系企業として19年間にわたり黒字経営を続けているシステムエグゼ。2016年1月に創業者の佐藤勝康さん(現・会長)から経営を引き継いで社長に就任した酒井博文さん(「松下幸之助経営塾」塾生)は、「顧客企業との直接契約や自社製品の開発に力を入れることが社員の成長となり、結果として会社の経営を安定させる」と言い切る。苛烈なIT業界で勝ち続ける理由は、武骨ながらも創業時から決してぶれることのない社員第一主義にあった。

 

社員の成長なくして会社の成長なし(2) からのつづき

 

<使命に生きる>
群雄割拠のIT業界で勝ち続けてきた理由とは――part3

自社製品で新規顧客開拓へ

酒井さんがシステムエグゼに入社した頃から、同社は次のステップとして自社製品の開発・販売に力を入れるようになった。システム構築をメインにするそれまでの体制では、今後の成長に限界がくる、自社製品があれば新規顧客開拓の武器になると考えたからである。現在では生産管理、少額短期保険、販売管理、システム基盤の仮想化、データベース監査、疑似データ生成、データベースメンテナンスなどの製品に加え、クラウド引っ越しサービスなど幅広い商品群を展開。生産管理は多言語対応し、ベトナムやタイに進出した日系企業が複数導入している。

 

ただ、これらの製品は元々企画開発ありきで生まれたものではない。いずれも、同社がこれまでシステムインテグレーションの過程で取り組んできたコンサルティングや実務ノウハウ、課題解決をベースに、現場社員の声から汎用化に至ったものだ。

 

ユーザーのすそ野が広いゲームなどとは違い、ITソリューション分野は爆発的なヒット商品が生まれにくい。そんな中で政府系金融機関をはじめ、損害保険会社、生命保険会社、インターネット事業者など数多くの団体・企業が導入するスマッシュヒットとなった製品「テストエース」の開発も、現場の声から生まれた。

 

テストエースは、新しいシステム構築に不可欠なテストデータ作成時の課題を解決するソリューション。精度の高いテストデータを作成するためには、できるだけ本番環境に近いリアルなデータを使用するのが有効だが、そこには個人情報流出の課題がつきまとう。そのため、システムエグゼでも、こうした案件を受注するたびに、個人情報を自動的に判定して最適な方法で置換したり、本番データに類似した疑似データに変換するマスキングをしたりして手間がかかっていた。「同じ課題を抱えている会社がたくさんある。この技術を精査して製品に仕立てれば、自分たちも、お客様もハッピーになるのではないか。社員から、そんな声が次々と上がりました。まさに、現場にこそ課題解決、新しいアイデアなどの宝の山があることを実感させられた瞬間です。だからこそ、私は社長業の一方で、今もプロジェクトマネージャーとしてプロジェクトを担当し、常に現場を回っています。そうしないと、顧客のニーズや社員の気持ちに敏感になることはできません」。酒井さんは力を込める。

 

日本型経営で世界進出へ

今年で二十年目を迎えたシステムエグゼ。酒井さんは、昨年の方針に「現場主義」「チャレンジ」「チェンジ」を掲げた。社員第一主義を基本とした会社の理念を踏襲する一方、新たな挑戦にも意気込みをみせる。その一つが海外進出の加速である。オフショア開発ですでにベトナム、タイに関連会社を設立しているが、今後は成長が著しいミャンマー、さらに欧米への進出も見すえている。

 

「世界に通用するIT企業になりたい。モノづくりの日本といわれ、自動車や家電などの製造業は世界で存在感を発揮しているのに、ITはいまだにアメリカが中心となっています。自由なアイデアを阻害する独特のピラミッド構造が一つの要因かもしれません。自分たちが構築したフレームワーク、品質管理といった日本の技術・ノウハウを世界中で売れるようにするために、常にブラッシュアップしながら、グローバルに向けてよいサービスを追求していきます」

 

そしてもう一つ、酒井さんが社長に就任してから行なったことがある。それは、終身雇用の約束だ。「業績に浮き沈みがあっても絶対リストラはしない。逆に、業績を下げないために最大限やり切る」と社内で宣言したのだ。同社は佐藤さんが社長だった時代から人員削減したことはなかったが、元々人材の流動が激しいIT業界であえて明文化するには、大きな覚悟が必要だったであろう。社員を大切にする日本的経営を貫きながら、世界進出を目指す。他に例がないシステムエグゼの挑戦から目が離せそうにない。

(おわり)
 

 

経営セミナー 松下幸之助経営塾

 

◆『衆知』2016.7-8より

 

衆知2016.7-8

 

DATA

株式会社システムエグゼ

資本金...4億7500万円
売上高...68億2300万円(2016年度)
経常利益...4億9000万円(2016年度)
従業員数...508名(グループ会社含む568名、2017年4月現在)
主要取引先...出光興産、小松製作所、サンリオ、スカパーJSAT、東京海上日動火災保険、東芝、日本KFC、日立金属、富士重工業、マニュライフ生命保険、三井住友海上火災保険、三井不動産ほか

 

 

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