昭和53(1978)年9月12日に松下政経塾の構想が発表されたことを受け、多くの知識人やジャーナリストが松下幸之助に面会や取材を申し込みました。同年9月26日に『タイム』誌、10月9日に京都大学教授の会田雄次氏、同月9日と11月3日にジャーナリストの田原総一朗氏、11月24日に『ニューヨークタイムズマガジン』誌が面会や取材をしています。その中でも10月12日に松下電器本社で面会したジョン・ケネス・ガルブレイス氏(John Kenneth Galbraith・1908~2006・写真)は、特に幸之助の印象に残ったようです(録音№9044、録音№9144)。

 ガルブレイス氏はハーバード大学名誉教授(当時)の経済学者であり、著書『不確実性の時代』は日本でもベストセラーになりました。2メートルを超す長身で知られ、後に松下政経塾の客員講師に就任しています(※1)。


 通訳を介した対談で、ガルブレイス氏は多くの政治家を輩出しているハーバード・ケネディスクールについて説明し、教育に関する持論を展開しています。幸之助はエジソンを例に出して政経塾の「自修自得」の方針を述べ、附属研究所を設ける予定であること、人間観を確立することの大切さなどを説明しました。


 ガルブレイス氏は、「『PHP』の英語の本は、だいぶ前からずっといただいて読んでおりました」と述べ、その主宰者が幸之助であるとは面会直前まで知らなかったと言っています。対談後は、ガルブレイス夫人や通訳を含め、10人で昼食を共にしました。


 幸之助はその後、記者から取材を受ける際、何度もガルブレイス氏の名をあげており、政経塾には優秀な人材を集めなければいけないと指摘されたことについて、繰り返し話しています。



1)『財団法人松下政経塾入塾のしおり』11頁(昭和54年6月ごろ作成)。