茶道に造詣の深い松下幸之助は、現在把握できる限り、上記の茶室を各団体・施設に寄贈しました。
このうち、赤字で記した茶室は、PHP研究所に詳しい一次資料が残されています。ここでは6、松寿庵についてご紹介します。
岩手県平泉にある天台宗東北大本山の中尊寺に、松下幸之助は松寿庵という茶室を寄贈しました。昭和42(1967)年11月15日に起工、昭和43(1968)年5月1日に竣工しています。直木賞作家でもあり、後に参議院議員にもなった今東光(こんとうこう)管首によれば、昭和42年7月12日、裏千家の千玄室氏と共にPHP研究所を訪問した際、幸之助から茶室を贈呈したいと申し出があったそうです(※2)。
幸之助が寄贈した茶室は、ほとんどが単独の建物であったのに対し、松寿庵は中尊寺の本堂や風呂場、貫主室、庫裡(住居)などと廊下でつながる形で建設されました(写真)。茶室は四畳半台目と立礼席、水屋などからなり、外から直接入ることもできます。造園は、岩城造園株式会社が担当しました。
現在、PHP研究所に残っている資料は、設計図と建設途中の様子を撮影した「工事写真報告」です。写真は、設計を担当した仙アートスタヂオによる撮影で、昭和42(1967)年10月24日から6回に分けて経過報告がなされています。見積書が残っていないので、総工費は不明です。
1)「松下真々庵茶室集録資料」淡交社編・発行『松下真々庵茶室集録』(1976年)221頁、八尾嘉男「図解でたどる茶の湯あれこれ 茶人編第24回 松下幸之助」『月刊茶道誌 淡交』№824(第66巻12号、淡交社、2012年)58~59頁、「弁天宗略年表」『智辯尊女』(辨天宗本部、2002年)、京都美術倶楽部ホームページ、和歌山市ホームページ、谷口全平・德田樹彦『松下幸之助 茶人・哲学者として』(宮帯出版社、2018年)などから作成。
2)今東光「松寿庵の記」淡交社編・発行『松下真々庵茶室集録』(1976年)210頁。訪問の年月日は「会記」資料より(所史ファイル)。今東光氏は、同じく直木賞作家の今日出海氏の実兄であり、瀬戸内寂聴氏の師匠でした。