「きみのとこ今、部下何人おるのや」
 幸之助が、ある課長に言った。

 

 「主任が三人おります」
 「その三人は、きみの言うことをよく聞いてくれるか」
 「はあ、よく聞いてくれます」

 「それは結構や。ところできみな、ぼくはいろいろ決裁しておるやろ。それを見て、世間ではぼくのことをよくワンマンだとか言っているらしいが、しかしな、ぼくが初めからこれでいいと思って決裁しているのはだいたい四割ぐらいやで。あとの六割は気に入らんところもあるけどオーケーしているんや」
 「はあ」
 「しかしな、きみ、そのオーケーしたことが実現するまでに、少しずつ自分の考えているほうに近づけていくんや。もちろん、命令して自分の思うように事を進めるのも一つの行き方ではあるけど、一応決裁はするが、そのあと徐々に自分のほうに近づいてこさせるのも、責任者としてのまた一つの行き方だと思うんや」