ある社員が、二人の上司のうち、信頼し慕っていたほうの上司に転勤命令が出たことに抗議するため、同志とはかって辞職願いを出した。大決心ではあったが、本心ではやめたくはなく、結局幸之助に詫びを入れて、なんとか収まった。
幸之助のもとに一同が集められたとき、「たいへんご心配をかけました」と頭を下げる社員に幸之助は、間髪を入れずこう応じた。
「何を言うか。きみたちは、これからも心配をかけるだろう」
このひと言で一同は安堵の胸をなで下ろした。
後日、幸之助はその社員を呼んで言った。
「きみ、光秀になるなよ。上の者の欠点にこだわって反抗したのでは正しくても大成しない。残したほうの責任者は、確かに欠点も多いが自分は得がたい経営者だと思っている。秀吉のようによいところを見て対処しなさい」