月刊誌『PHP』の裏表紙に、松下幸之助が折々の思いをまとめ、毎号掲載した短文を収録したのが『道をひらく』ですが、今回はその続編である『続・道をひらく』をご紹介します。
480万部(2012年3月時点)のベスト&ロングセラー『道をひらく』の続編として1978年末に刊行。以来、多くの方々に愛読される書です。
(2012.3.15更新)
春がきた。夏がきて秋がきて、冬がきてまた春がきた。
同じことのくりかえしのようにも見えるけれど、
樹々は一まわり大きくなった。
それぞれに、それだけ生長している。
決して同じではない、くりかえしではない ―― 『続・道をひらく』より
詳細
合計116編からなる本書は、1年12カ月、各月それぞれを章として計12章で構成。各章ごとに季節感のある文章を楽しむことができます。その「まえがき」に松下はこう記しています。
「折おりの感懐をそのまま綴ったものであるが、おのずとこの十年の日本の世情を反映して、日本と日本人の将来に対する私の思いをあらわしたものになっている」
「冬の古寺」「枯葉」「スズメ」「陽だまり」「土ぼこり」「春雷」「暖雨」「さくら」「若葉」「涼風」といった古きよき日本を思い出させてくれる言葉がちりばめられているかと思えば、「国運」「警鐘」「国医」「人類の経営」といったような、松下の国家観を端的にあらわす言葉も多く見られ、幅広いメッセージがおさめられているのが本書の特徴です。
そして、どの短文にも通底して、自分を育んでくれた日本という国への情愛の念、自身が日本人であることへの感謝の気持ち、さらにはそのことに恩返しをしたいという松下らしい心持ちが、さまざまな言葉を借りつつ表現されています。
2011年3月11日、あの東日本大震災から1年が経ち(2012年3月時点)、日本国民は日本の「よさ」を改めて実感したように思えます。しかしそれとともに、多くの深刻な問題点にも気づかされることになりました。日本全体、日本人全体が「復興」の2文字のもとに、「国運」を信じて、心と心を寄せ合い、力と力を出し合い、知恵と知恵を重ね合わせる。今後もそうした姿を維持・継続できるかどうかが、速やかなる復興のカギとなってくることでしょう。
本書が、一人でも多くの方に末永く愛読されることを願います。心あらたまるこの時期に、ぜひご一読ください (全国の書店にて発売中です) 。
国運
人には人の運命がある。さまざまの思いとさまざまの努力のなかで、時に幸せに心浮き立ち、時にまた悲嘆の淵をさまよい歩く。そんな山坂の交錯の日々を辿り来て、人ははじめてわが身の運命に思い到る。
国にもまた国の運命がある。人類の長い長い歴史のなかで、さまざまの国が生まれ、またさまざまの国が消え去った。今もなお全世界百余の国ぐにが、それぞれなりに興亡の道を辿りつつある。そこには希望もあれば不安もある。安逸もあれば懸命な努力もある。さまざまの国家とさまざまの国民。
そんななかでの日本。不安に立てば限りもなく不安でもあろう。しかし、二千年余の国家としての日本の歴史に思い到るとき、危殆にひんしたことのいくたびか。そして、そのいくたびかの危機をともかくものりこえて、過去の国とならず今日もなお健在である。その国運のいかに恵まれたことか。
この日本の国運に感謝しつつ、この恵みを正しく受けとめ生かしていく。今日ほど日本人としてお互いにこの思いの大事な時はないのではなかろうか
―― 『続・道をひらく』より
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