今回は、『実践経営哲学』(松下幸之助著)をご紹介します!
自らが“60年間の体験の集大成”と述べた本書は1978年に刊行、2001年には文庫化もされ、経営者・リーダーの方々に愛読されています。
(2012.4.10更新)
詳細
「この本は、先ほども申しましたように、理論的、学問的というより実践的な経営に重きをおいておりますからね。つまり、これまで六十年間の、ぼく自身が身をもって体験し、感じたものの一つの集大成ともいえるものですから、その点では、非常に実際的ではないかと考えているのですよ。しかし、そうは申しましても若干注意していただきたいことがあるのです……」
この発言は、本書発刊の折に行われた、あるインタビューにおいて、松下幸之助自身が述べたものです。もうすこしご紹介しましょう。
――『実践経営哲学』から、実際の経営に役立てようとするとき、どのようなことに注意をしたらよいでしょうか。
松下 この本は、先ほども申しましたように、理論的、学問的というより実践的な経営に重きをおいておりますからね。つまり、これまで六十年間の、ぼく自身が身をもって体験し、感じたものの一つの集大成ともいえるものですから、その点では、非常に実際的ではないかと考えているのですよ。しかし、そうは申しましても若干注意していただきたいことがあるのです。(中略)
同じ経営理念であっても、それぞれ各々の具体的な経営のやり方は無限といってよいほどあるということですね。ですから、この基本のところだけはおさえつつも、実際の経営にあたっては、経営者なり責任ある立場の方がたが、そこに自分の持ち味を加えつつやっていただきたいと思うのです。みなさんそれぞれ自分の持ち味を無視して、ぼくと同じようなやり方で経営をやってみてもかえってうまくいかない場合がおこるかもしれない。その点だけを十分加味しつつ、お読みいただき、実際の経営にたずさわっていただければ、必ず何らかのお役に立てるのではないか。いま、ぼくはそう考えているのですよ。
“ぼくと同じようなやり方ではうまくいかない場合もある”。“自分の持ち味を加えて”、そのうえで本書の内容を活かしてほしい。それが、松下が本書に込めた思いでした。さらにこのインタビューでは以下のようなことも話しています。
――経営哲学というと何か理論的、学問的な本という感じで、いままでのご自身の著作とくらべて、少しかたくるしいというような印象もあるのですが、その点はいかがでしょうか。
松下 実践と名がついていても経営哲学ということですからね。そう思われがちな面もあるかもしれませんが、実際にはそんなかたくるしい内容ではないのですよ。あくまでこれは、この六十年間実際の経営にたずさわってきたぼく自身が、身をもって体験し感じとってきた事柄のなかから、これは経営にとって非常に大事なものだというものを、吟味し一つにまとめたものなのですね。
ですから、理論的、学問的ではなく、実践的、実際的な内容になっている。そういうことからすると、理論的には必ずしも当をえてない面もあるかもしれませんが、現実の実際上の経営という観点からみれば、基本的にあやまりのない、事業を成功に導く一つの考えではないか、ぼくはいまそう思っているのですよ。
――なるほど、そうですか。ところでいま、理論と実践ということがありましたが、一般的にみて、ご自身はどちらを重視されたらよいとお考えでしょうか。
松下 これはむずかしいですな。人によっていろいろに言えるでしょうからね。だからどちらが大切だとは簡単にはいえんでしょうな。ただ、いままで八十年余りの、ぼくの体験からいうと“百聞は一見にしかず”といわれてますが“百聞百見は一験にしかず”と言えるようにも思うのですね。
たとえば砂糖は甘いということはわかっていても、その実際のところは、まず自分でなめてみなければわからんですわ。また、水泳の練習をしようということでも、いくら話をきいても、ダメですな。やはり実際に水に入って、しかも溺(おぼ)れるような体験をへて、はじめて泳げるようになるのですね。こうすれば泳げると、いくら理論を教えてもらっても、それだけでは実際の役に立たんということですよ。
これは何事にもいえることではないでしょうか。ですから、まずやってみること、実践してみること、ぼくはこれが非常に大切ではないかと思いますね。
今回ご紹介した『実践経営哲学』は、文字通り、松下幸之助が自らの経営において日々実践し、体得してきた哲学、考え方、信念といったものを凝縮した本です。
計20章の、章タイトルそれぞれを眺めると――「生成発展」「人間観を持つ」「自然の理法に従う」「利益は報酬」「共存共栄」「世間は正しい」「ダム経営」「適正経営」「人をつくる」「衆知を集める」「対立しつつ調和する」「経営は創造である」……。目新しい、奇抜なタイトルコピーは、いっさいありませんが、「松下幸之助ならでは」の言葉がずらりと並んでおり、松下の経営スタイルを理解するための、最低限かつ最重要キーワードが網羅されているといえます。
また、最初の章「まず経営理念を確立すること」から、最後の章「素直な心になること」まで、経営・マネジメントという人間の営みが世の中からなくならないかぎり、つねに必要とされるであろう項目が厳選されています。
自らの経営理念のもと、あらゆる可能性を追求し、あらゆる手立てを講じて、いまの経営の成功と社会の発展に寄与することに、全力を傾注する――そうした経営者の方々に、本書が今後も長く愛読され、活用され続けることを願います(全国の書店にて発売中)。
PHP研究所経営理念研究本部