自らが創設したPHP研究所が30周年を迎えた昭和51年、松下幸之助は、21世紀初頭の日本はこうあるべきだ、こうあってほしいとの願いをこめて『私の夢・日本の夢 21世紀の日本』という本を出版しました。それは未来小説という体裁をとっていますが、いわば松下幸之助の提言の集大成ともいえるものでした。
松下幸之助が描いた「理想の日本」「理想の日本人」とは、いったいどんなものだったのでしょうか。
松下幸之助が描いた21世紀の日本
政治が安定している国――part1
松下幸之助が政治や社会に対して発言を始めたのは、第二次世界大戦後のことである。それまでは、産業人は産業人として、みずからの仕事に精一杯取り組み、政治のことは政治家に任せていればいいという考え方であった。
しかし、終戦後の食べるに食糧がなく、住むに家がないというような悲惨な状況を目の当たりにして、またあまりにも非効率で人情の機微を無視したような政治の姿を見て、公憤を覚えることになる。
“国民活動のすべてに影響を及ぼす政治が安定し、よくならなければ、まともな企業活動もできないし、国民の幸せもない。政治をしっかりしたものにするために、産業人といえども一国民として政治に対して提言をしていかなければならないのではないか”
昭和二十一年(一九四六)十一月三日、PHP研究所を設立したが、その動機の一つもそこにあった。それ以来、政治に対してさまざまな提言を重ねてきた。
松下幸之助は、およそ目標、計画を立てて行なうことはすべて経営ととらえていたが、政治は、国家国民全体を対象にした経営活動、すなわち、「国家経営」であり、真の政治は「真の国家経営」でなければならないと考えた。それでは、真の国家経営が行なわれるためには何が必要と考えていたのであろうか。
◆政治理念の確立なくして力強い政治は生まれない 【政治観2】へつづく
◆『[THE21特別増刊号]松下幸之助の夢 2010年の日本』(1994年10月)より
筆者
谷口全平(元PHP研究所取締役、現客員)
筆者の本
(いずれも現在、電子書籍のみの販売となっております)
関連項目
・松下幸之助の社会への提言【政治】
・松下幸之助の社会への提言「私の夢・日本の夢 21世紀の日本」
・松下幸之助の政治・経済・社会・国家観