釈迦、キリストこのかたといいますか、まあ歴史というものが記録に残ってからこのかた、人間観というものが少しも変わっていないのです。封建思想が民主主義になったとか、あるいは共産主義であるとか、資本主義であるとか、そういうものはいろいろ変わってきましても、人間観というものにはちっとも変わりがない。この人間観を今のままでおいておいたら、どんな主義主張が出ても決してうまくいかない、どんな政治形態でもいけない、私はそんな気がするのです。
このままでは、文化が進むほどもっと大きな災害といいますか、悲惨な状態がわれわれ人類の上に生まれてきはしないだろうか。だから、新しい人間観をわれわれお互いがそこにつくりあげなくてはいけない。そして、その新しい人間観に立って、政治、経済その他一切のものを考えなくてはいけない。そうでなければ結局は、文明が進めば進むほど、災害が多くなってくるのではないかというように思われてならないのです。
『社員稼業』(1974)