天命とか運命といったものがあるかないかというのは、まことにむずかしい問題である。科学的に証明できるものではないから、そんなものはないという見方もできるし、そう考える人もいるだろう。
しかし、孔子はそういうものがあるとして、自分は五十歳にして天命を知ったとはっきりいっているのである。つまり、孔子は古の聖人が説き、実践した正しい道というものを研究し、それを現世に生かし、後世に伝えることを生涯の仕事としたが、それは単に自分一個の意志や考えでやっているのではなく、それを超えたもっと大きな力、すなわち天命によって、いわばやらされているのだと考えたわけである。そこに孔子の非常な強さがあるのだと思う。
『指導者の条件』(1975)