経済界の不況の中にあって、着実に業績を伸ばしておられる経営者の人がある。ところが少しもそれを誇らない。「ありがたいことですが、あまりうまくいきすぎて、自分でも恐ろしい」といわれる。そして私に、衆知の集め方を教えてほしいとたずねられる。また、隆々と発展しているある団体の指導者の人は、私が訪問すると、約束の時刻の十分も前から玄関に出て待っておられる。そしてこちらが恐縮するほど辞を低くして迎えてくださる。その隆盛にいささかもおごるような気持ちが見られない。結局、それらの人びとは、その会社なり団体の最高指導者でありながら、いちばん謙虚で、だれよりも感謝の心が強いように思われる。そして内外の人につねにそうした謙虚な心持ちと態度で接しているのであろう。それで、だれもがその人に好感を持つから、そこにおのずと内外の衆知が集まってくる。
『指導者の条件』(1975)