ある教育家が、この国ほど教育のゆきとどいている国はどこにもないと話されていましたが、なるほど、わが国に自分の姓名を書くことのできない人はほとんどいないといってよいくらいであります。しかし、これをもって、日本の教育が、世界で一番進んだものと考えることはあたらないと思います。なぜならば、教育が進んでいるかどうかは、単に自分の名前を書ける人が多いか少ないかということではなくて、その施された教育が人生の上に正しく生かされているかどうか、ということによって評価されるべきものであります。いわゆる、似て非なる教育を施していたのではなんの役にも立たないばかりか、それは物心両面の悪い消費であります。

PHPのことば』(1953)