昔のことわざに「人事を尽して天命を待つ」という言葉がある。これはまったく至言だと今でも思っている。私は今日でも自分にときどき、その言葉をいいきかせているのである。というのは、現在でも日常いろいろめんどうな問題がたくさん起る。だから迷いも起るし、悲観もするし、おもしろうない世の中やなあというような感じも、人間だからもつこともある。そうすると仕事にも自然力が入らない。それではやはりぐあいが悪い。それで私は、人事を尽して天命を待とう。自分は是と信じてやってやるのだから……、そして成果は人に決めてもらおう。こういう考え方を、私は今でも自問自答してもっているのである。
それは一人の人間でも、一つの会社でも同じであると思う。会社も一生懸命やらなくてはならない。しかし会社がさらに立派になるかどうかということは、われわれ人事を尽して最善を行なえば、あとはもう人に頼んどこやないか……と。こういう考えをもたんと、やはり迷いが起るように思う。小さな人間の知恵で、いくら物を考えてみても、どうにもならぬ問題がたくさんありすぎるのである。
『物の見方 考え方』(1963)