本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。
<真の経営者とは> 片手に経営、片手に政治
政治と経済は密接に結びついている
日本の産業構造は今、大きな転換期にあり、経営を変革していかなければ、企業の未来はない。経営の舵取りはきわめて難しい状況におかれている。
そうしたなかで、企業としては、長期をにらんだ新たなビジネスモデルの構築と着実な改革、消費構造や産業構造の変化に応じてねらいを定めた戦略がますます重要になってくる。経営者は、変革の必要性を社内に訴え、納得させ、浸透させて、確固たる意志をもって、改革を断行していかなければならない。そうした経営者の強い意志と実行力なくして、企業の今後の安定発展はありえないといっても過言ではない。
ところで、そうした経営努力もさることながら、それと併せて、これからの経営者により強く求められるのは、一国の政治に十分な関心をはらい、そのよりよき姿を実現するための提言、提案を積極的に行なっていくことではないか。
昔は、経済界のことは経済界でやればよい、政治はお上に任せていればよい、でよかった。しかし、今日、政治と経済は密接に結びついており、切っても切り離せない関係になっている。経済政策、財政・金融政策のいかんが景気の動向を大きく左右するし、激動する国際関係のなかで外交政策に当を得ない点があれば、各企業の海外活動は直ちに大きな制約を受けることになる。
また、今日のように歴史の大きな転換期ともいえる時期にあっては、世界的、長期的な視野に立って国としてのあるべき姿を考え、それを将来へのビジョンとして国民に訴え、ともに実現をはかっていこうといった政治のリーダーシップがあってこそ、経済活動にも真の力強さが加わってくる。
企業が果たすべき新しい責任
ところが今日、日本の政治の状況は、真のリーダーシップの発揮にはほど遠く、ますます混迷、混乱の度を深めつつある。
そんななかで経営者には、みずからの企業の経営を熱心にすることと併せて、今後の政治のあり方についても大いに関心をもち、日本国民としての観点から、建設的な提言、提案を寄せ、よりよい政治を生み出す一翼を担うことが強く求められているといえよう。企業は今、政治家や官僚がうまくできない機能を果たさなければいけない新しい責任を負い始めており、経営者は、政治に並行しながら、政治に政策面で優先する任務を負っているともいえるのではなかろうか。
そうした、いわば“片手に経営、片手に政治”といった姿勢が、日本の政治の再生のためにも経営の安定発展のためにも不可欠のように思われる。
◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集
筆者
佐藤悌二郎(PHP研究所客員)
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