本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<事業を伸ばす要諦> お客さまの声を聞く

ほんとうにお客さまに喜ばれているか

 大正十二年、松下幸之助が考案した自転車用の電池ランプ「砲弾型ランプ」は当時として画期的な新商品であった。
 そのころ、自転車用の灯火はロウソク・ランプや石油ランプで、風が吹くと消えてしまうし、値段も高かった。電池式もあるにはあったが、寿命がせいぜい三時間程度と短く故障も多かったから、三、四十時間も点灯する「砲弾型ランプ」は好評を博し、松下電器発展の基礎を築く基となった。

 

 その発売にあたって、自転車店に無料で置いて回り、点灯試験をしたのはよく知られた話だが、発売から二、三カ月して、月に二千個もの注文がくるようになったとき、松下は不安になった。「確かに売れることは売れているが、ほんとうにお客さまに喜んで使ってもらっているのだろうか。実際に使われている状況を見、お客さまのご意見も聞いてみないとわからない......」

 

 そこで松下をはじめ全員で、日暮れになると、辻々にメモと鉛筆を持って立ち、往来する自転車の灯火を一つずつ丹念にチェックした。もちろん数だけでなく、少し時間を割いてもらって、使い勝手や意見もこと細かに聞いた。夜のこの実地検分は、やがて自転車置き場を回ることにまで発展していったという。

 

物つくりやサービスの基礎を需要者におく

 企業がヒット商品を生み出すためには、やはりすべてをお客さまの側から発想した、お客さまの立場に立った商品や品ぞろえ、売り方をしていかなければならない。もちろん広告宣伝にも力を入れる必要があろうし、何よりもまず商品そのものがよいものでなければならないであろう。

 

 また、さきの松下の話に見られる行き方も、ずいぶん昔の事例だが、今日においてもやはり大事なことなのではなかろうか。

 人々の不便を何とか解消したいという強い思いからアイデアが生まれ、工夫改良を重ねる。そして納得のいくものができれば、そのでき具合、使い勝手を需要者に直接尋ねてみる。こうしたなかからヒット商品が生まれてくるのである。

 

 かつて、松下は、社員が集まって、新製品が売れるかどうか議論をしていたときに、「そんなことを議論しても始まらない。買ってくれる人に尋ねればいいんだ」といって聞きに行かせたこともあった。そのように現場に足を運び、需要者の生の声に耳を傾けることは、マーケティングの原点であり、そうした物つくりやサービスの基礎を需要者におく姿勢は、厳しい経営環境のなかにあって、ますます大切になってきているといえよう。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所専務)

 

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