本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<事業を伸ばす要諦> ユーザーの立場に立つ

無理して売るな

 昭和四十五年ごろのことである。ある電気製品について、急激な技術革新によって、低価格で高性能の新製品がつくられるようになり、多くのメーカーで、旧製品の在庫を抱えることになった。

 

 他社と同様に、相当の旧製品の在庫をもつことになった松下電器でも、担当責任者が対策に苦慮していたが、いろいろ考えた末に、少しでも損害が少なくなるようにと、その対応策をこと細かくリストにまとめて、役員会に報告した。しかしそのときに、松下幸之助が出した指示は次のようなものであった。

 

「これは君、人力車が自動車に替わったようなものやろ。こんなものを無理してお客さんに売っても、買った人が後悔するだけや。全部処分したらええ。どうや、これで君もさっぱりしたやろ」

 

かたちだけのお客さま大事になっていないか

 今日、“お客さま大事”“顧客第一”という言葉を唱えない企業、経営者はいない。しかし、心底からそう考え、かつ実践している企業なり経営者がどれほどいるだろうか。口先だけの言葉に終わって、顧客の都合より、自分の都合や社内事情を優先して物事を考え、決定しているようなことはないかどうか。たとえば、よくマニュアルをつくってお客に応対しているところがあるが、それでこと足れりと、かたちだけのお客さま大事になっていないかどうか。

 

 競争が激しい今日、お互いの事業、商売は、お客さま重視の考え方を行動の原点にすえないかぎり、成り立ちえなくなっている。否、これは今日にかぎらず、いつの時代でもあてはまる万古不易の鉄則であろう。またこれは、一商店、中小企業、大企業といった規模の大小を問わず、小売業、メーカーといった業種の違いを問わず、いかなる会社、商店においても、つねに第一に考えられるべきことであろう。

 

 技術開発から新商品、新サービスの提供、さらには日常のお客に対する応対にいたるまで、顧客が期待しているものを、顧客の身になって、忠実に、しかもタイミングよく提供していかなければ、会社、商店の存続、発展はおぼつかない。

 

 もとより、“お客さま大事の心”の大切さについては、いまさらいうまでもなく、だれもがわかっていることであろう。しかし、大事なのは、それが日々の言動のなかで、あるいはお客さまを前にして、自然に態度に表われるまでになっているかどうか、すなわち身についたものになっているかどうかである。

 

 そうした血肉となった姿にまで高まってはじめて、“お客さま大事の心”は相手に伝わり、お客さまの喜びとなるとともにみずからの喜びともなり、それがひいては商売繁盛に結びついていくことになるのではなかろうか。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所専務)

 

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