本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<事業を伸ばす要諦> 確固たる戦略を指示する

鬼塚喜八郎氏の一点集中・キリモミ戦略

 アシックスは今や総合スポーツ用品メーカーだが、その戦略は、錐で揉む戦略、すなわち一点集中・キリモミを、鬼塚喜八郎氏の創業以来徹底して実践したものだった。

 

 昭和二十四年の創業時にバスケットシューズの生産、販売からスタートし、それから三年間はバスケットシューズばかりをつくり続けた。そして全国シェアが九〇パーセント近くになってから、次のマラソンシューズへ、さらにテニス、バレーボールというように、狭い分野を徹底的に征服していった。このように一つの商品分野でトップの座を手に入れてから次の商品を手がけるというやり方で、スポーツ用品の総合メーカーへと発展していったのである。このアシックスの行き方には、弱者の戦略の一つの典型が見られると同時に、戦略の重要性を見て取ることができる。

 

 今日、経営環境は、ますます激変、激動の様相を呈している。その渦中にあって、誤りなく企業の舵取りをしていくために、各企業ではさまざまな努力がはらわれているが、その場合、何といっても大切なのは、やはり確固たる経営戦略を経営者がもつことであろう。

 

 社会の変化、時代の流れに目を凝らし、業界の将来なり他社の動向を探る。と同時に、自社の経営資源、能力のどこが強く、どこが弱いのかを見きわめ、得意分野を見定める。そのうえで、将来の戦略を練り、経営資源を集中的に注ぎ込む。鬼塚氏のとった戦略はまさにそれだが、経営者は、企業の内外について最も深く知りうる立場にあるだけに、その豊富な情報で環境の変化を洞察し、戦略を立て、それを社員に示していかなければならない。それが経営者の重要な仕事の一つであろう。

 

何のために、どういう目的で、どんなやり方で

 とくに今日のように、先の見えにくい、何をどうすればよいのかわからないというようなときには、経営者に、自分の会社の進むべき方向、目標を明確にし、戦略をはっきりと示すことがいっそう求められている。そして、そのときに大事なのが、“この会社は何のために存在しているのか。この経営をどういう目的で、また、どのようなやり方で行なっていくのか”という経営の原点に返ることであろう。

 

 経営者にとって、一年先、二年先に世の中はこうなるだろうということを察知する、いわゆる先見性は欠くことのできないものである。しかし、変化の激しい今日では、こうなるだろうと思ったことが必ずしもそうなるとはかぎらない。とすれば、経営者には、先見性に加えて、みずからが確固たる方針と戦略を示し、情熱をもって、その実現をはかっていくことがますます必要になってくる。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所専務)

 

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