本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<事業を伸ばす要諦> 開発へのあくなき執念

新商品開発の難しさ

 日本で生み出される新商品の数は年に約二万、そのうち一年後に残るのは一パーセント、売上げ五〇億円以上のスーパーヒットとなると、〇・〇一パーセントにすぎないという説がある。

 

 事前に十分な調査をし、多大の設備投資、人件費、デザイン料、宣伝費などを投じて大々的に発表しても、一年後には九九パーセントの商品が姿を消す。しかも売れていちばん驚くのは当の開発担当者で、売れた理由も後から付される場合が多いという。つまり今日においては、何が売れるかわからない、従来のマーケティングでは解決できないことが起こっているというのである。

 

 そうした状況下での新商品の開発は、確かに難しいといわざるをえない。とはいえ、ヒット商品となるための条件がそれなりに存在することもまた確かである。

 

 たとえば品質のよさや求めやすい価格、独創性、売り出すタイミング、消費者のニーズを的確につかんでいることなどは欠かせまい。そして、ここで忘れてはならないのは、それらはいずれも、開発へのあくなき執念と的確な先の読み、行動力があってはじめて満たされるということである。

 

 実際、ヒット商品、ロングセラー商品を分析してみると、単なる思いつきや運でポッと生まれたものは滅多になく、社運を賭けるほどの意欲と努力を傾注してつくり出されたものがほとんどだという。その意味で、もちろん全知全能を傾けてもうまくいかないものもあるが、ヒット商品は、いうなれば企業の活動の徹底の度合で決まる、企業の姿勢の問題に帰着するともいえよう。

 

松下幸之助が“運が強い”と言われる理由

 松下幸之助は運が強いと、世間も認め、みずからもそう語っていた。しかし、かつて社員への内輪話として、こんな話をしたことがある。

 

 「私は、『松下さん、あなたは運がよくてよろしいな』と、あたかも私がぼた餅が置いてある棚の下に行って、寝て待っていたといわんばかりのことをいわれて心外に思ったことがある。私はそういうことは断じてしなかった。
 私にはつねに川の向こうに自分が願っているものがあって、それでつねに川を渡ろうとして努力してきたのである。たとえば、川のほとりまで行ったが、あいにく大雨で渡れない。その場合、普通なら、家に帰って待とうかとか、旅館で泊まって待とうかということになるだろう。しかし、私はつねに川のほとりで待っていた。そうすると川上から大木とか舟が流れてくるのに遭遇して、そこにいた私だけが、大木や舟を得て、向こう岸に渡ることができたのである」

 

 これは今日の商品つくりにも通ずる話ではなかろうか。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

 

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