本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<変化、ピンチへの対応> 時代の変化を読み取る

将来についての確固たる構想をもつ

 経営環境の先行きがますます読みにくくなっている。そうしたなかで企業は、めまぐるしく変わる社会情勢、人々の意識、時代の流れを読みながら、世の中の変化を先取りし、経営体質を変え、環境の変化に適応していかなければならない。さもないと、市場の変化に対応できなくなり、衰退、倒産の憂き目を見ることにもなりかねない。

 

 したがって、経営者には、既成概念にとらわれず、変化の方向、新しい流れをいち早くつかみ取り、さまざまな事態に対応できる能力、時代を見きわめる目、先見性といったものがますます求められるようになってきている。

 

 もっとも、ただ時代への適応を心がければいいかというと、そうではない。それ以前に経営者は、将来について確固とした構想をみずから組み立てなければならない。どのように会社を変革させるのか、今後どういう方向にもっていくのか、三年先、五年先、あるいは十年先の会社のあるべき姿を想定し、積極的な手立てを講ずる。そのようにしてみずから変化をつくり、それに主体的に乗っていくことがきわめて大事である。

 

 何の構想ももたず、日々の対応に終始していては、安定的かつ長期にわたる成長、発展は望めない。その意味で、こうした不透明な経営環境のなかでは、経営者のビジョンやリーダーシップといったものがよりいっそう重要になる。将来のビジョンや目標を従業員に与え続け、その実現をはかってこそ、経営者としての役割を果たしうるといえよう。

 

変えていくべきものと変えてはならないもの

 その場合に大切なのが、いかなるときも変わらない指針、確固とした座標軸をもつことである。

 経営にも、時代の変化に応じて変えていくべきものと、いくら時代が変わり、世の中が変化しても、変えてはならないものがある。その変えてはいけないもの、それは、会社にとって、従業員、社会にとって何がよいことか、何が正しいことなのかということに基づいた企業の経営理念、経営者の哲学である。その座標軸を正しく定め、そのうえで、変化に対応すべく、変えるべきを変えていく。

 

「不易」と「流行」という言葉があるが、そうした不易と流行の見きわめが、経営においてもつねに考えられなければならない。かつてのバブル期の企業がとったさまざまな付和雷同的な行動は、確固たる座標軸をもちえなかったということであろう。

 

 変えてはいけないものはこれをしっかりと堅持し、変えなければならないものは勇気をもって思いきって変えていく、その峻別が誤りなくできているかどうか。この観点から、いま一度みずからの経営に思いを巡らせてみてはどうであろう。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

 

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