本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<変化、ピンチへの対応> 企業の健康状態を知る

徹底した手術が身を救う

 五時間以上に及ぶ悪性腫瘍の摘出大手術を受けた社員を、手術後間もなく見舞った松下幸之助は、社員から手術後の心細さと、予想外のしかも長時間の手術を受けた苦しさを切々と訴えられた。


 うんうん、とうなずきながら聞いていた松下は、訴えが終わるといった。
「それは喜ぶべきことやで」
 そして意外な言葉に驚く社員に、こう続けた。
「その徹底した手術が君を救うんや。なまじっかな処置はかえって再発を呼ぶこともあるやろう。事業も同じことでな、欠陥を発見したときは、健康な部分までえぐり取るほどの処置をせんと、立て直しはできへんもんや」

 

 人間の体と同じように、企業もときに病におかされ、はなはだしきは倒産という死に至る。したがって、企業が病にかかったなと思うときには、その原因をいち早く突き止め、適切な処置を講じなければならない。
 症状によっては、薬を飲むだけですむこともあろう。しかし、手術が必要な場合もある。その際には、病根を徹底的に切り取って再発を防ぐという思いきった処置をとらなければならない。むろん相当の痛手を被るし、回復にも時間がかかるが、病気が進んでしまった以上、そうした犠牲は覚悟しなければならない。

 

変化の実態をいち早くつかみ、適切に対応するには

 そこで、そういった事態に陥らないために大事なのが、病気の早期発見であり、さらには病気にならないための予防である。日ごろから、仕事の進め方や制度、組織について、私利私欲、私の立場にとらわれない素直な心で点検する。道にかなった方針のもと、衆知を集めて仕事が進められているか、指示が的確に通じ、正しい報告が上がってきているか、社員の士気、外部環境の変化はどうか、企業の健康状態の診断に細心の注意を怠らないようにする。

 そうすれば経営の実態がありのままに見えてきて、何が問題か、どういう手を打つべきかが、おのずと明確になってくるであろう。

 

 企業が倒産する原因として、社内に公私混同が横行している、派閥による内部抗争がある、労使の関係が円滑でない、といったことが指摘されるが、そうした点についての変化の実態を、いち早く正しくつかめる素直な心と、適切な対応策を断行できる実行力が、経営者、経営陣にあるかどうか。それらが十分であれば、企業の病気の早期発見も健康体の保持も決して不可能ではない。
経営者につねに求められているのは、そうした“転ばぬ先の杖”をもつことではなかろうか。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

 

関連書籍

下記書籍では、本コラムの内容に加え、古今東西の経営者・実業家の名言も紹介しています。

リーダーの心得ハンドブック

(こちらは現在、電子書籍のみの販売となっております)