本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<変化、ピンチへの対応> 好景気・不景気は心の所産

不景気なときにこそ

 昭和初期の不況時のことである。松下幸之助にある知人が、「家を建てたいのだが、こう世間が不景気では、堂々と新築するのは何だかはばかられる。はなはだ気がひけてならないから、とうぶん新築を思いとどまろうと思う」と話した。

 

 そのとき、松下は即座にこういった。
「それはよくない考えだ。この不景気なときにこそ、君らのような資産家は家を建てるべきだ。そうすることによって、多くの人に職を与えて人を喜ばせ、君自身は非常に安く家を建てられるのみならず、ていねい親切なよい仕事をしてもらえ、一挙両得という結果を得るのだとぼくは信ずる」

 

 この知人のように、人の目を気にしたり、全体のムードに流されてしまったり、突出を避ける横並び意識が日本人には一般に強いといわれる。だから不景気になると、社会全体が不況一色に染まり、企業家も消費者も総縮み志向、みな弱気になって、いっせいに「経費削減」「節約、節約」といいだす。その結果、ますます需要は減退し、消費は冷え込み、世間の金づまりに拍車がかかって、不況に不況を重ねてしまう。

 

好況をよぶ発想を

 このように、景気は心理的要因に大きく左右される面がある。すべてとはいわないが、不景気のかなりの部分は、そうした人間の心の所産、つまり心で不況をつくっているという見方もできるのではないか。

 

 だから、不況克服の処方箋はあまたあろうが、まず大事なのは、やはり心で不況をつくらないこと。松下は「不況といい好況といい人間がつくり出したものである。人間がそれをなくせないはずはない」と述べていた。景気は人間の考え方次第でどうにでもなるもので、人間がつくっている以上、なくせないはずはない、という見方に立つことである。

 

 あるいは、景気にはサイクルがあり、好不況はやむをえないという見方があるが、ちょっと見方、発想を変え、ほんとうにそうなのかと疑ってみることである。先入観を排し、既成概念を打ち破ることによって、それまでとはまったく違った世界がひらけてくるのは、これまでの人類の歴史が証明している一つの真実であろう。そうしたことによって、人類の進歩、社会の進歩ももたらされてきているのである。

 

 景気の現状や見通しについては判然とせず、不透明な部分が多い。こうしたときにあたり、もちろん実体を伴わない楽観論は厳に戒めなければならないが、やはり好況を呼ぶような考え方、発想をしていくことが大事なのではないか。

 

 いたずらに世の中の空気や通念、常識に影響され萎縮してしまうのは賢明な姿とはいえない。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

 

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