本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<変化、ピンチへの対応> 不況を突破する知恵

「不況またよし」

「不況またよし。不況は改善、発展への好機である」と、松下幸之助はつねづね語っていた。この言葉は、事業経営を進めるなかで、昭和初期のいわゆる“昭和恐慌”をはじめ、幾度となく直面した不況をその都度見事に切り抜け、そのたびに事業を大きく発展させてきた松下の数多くの不況時の体験と実績から生まれた実感といえよう。

 

また、松下は、「景気の悪い年はものを考えさせられる年。だから、心の革新が行われ、将来の発展の基礎になる」ともいっている。

 

実際、改革、改善は、順調なときにはやりにくいものである。人間の常として、好況で調子のいいときが続くと、どうしても安易な気持ちが生じがちで、そのため、何か問題があっても、見過ごしてしまうことも多く、反省が十分に行われにくい。

 

ところが、ひとたび不況が襲い、経営が困難に陥ってくると、好況時には気づかなかったり、あるいは気になっていても、つい手つかずのままにしていた課題がはっきりと見えてくる。改善、改革の必要性が痛感されるようになり、社員にも危機感が生まれ、好況時にはなかなか取り組もうとしなかったことにも真剣に対処するようになるし、社員一丸となって改革を進めやすくなる。人材も、仕事がうまくいかない困難なときに成長し、育つものである。

 

不況こそ絶好のチャンス

このように、厳しい環境のなかでのほうが、長年抱えてきた懸案事項にメスを入れたり、経営体質を改善、強化したり、社員を教育しやすい。その意味で、不況、困難なときこそ、これまでの経営を見直して、新たなる企業に生まれ変わるための絶好のチャンスといえよう。

 

今後の景気や為替相場の動向についてはさまざまに論じられている。それらは一企業の力では、いかんともしがたいものである。しかし、いかなる状況下でも、利益をあげ、業績を伸ばしている企業がないわけではない。ということは、やり方によっては、道があるということである。だから、不景気だからとあきらめたり、いたずらに萎縮することなく、こんなときこそ、みずからの力で景気をよくするのだというくらいの意気ごみで、事にあたる必要があろう。

 

不況を忌まわしいものと受け止めるのではなく、“不況こそ、改善、発展への願ってもないチャンスだ”と、積極的な見方に立ち、そのうえで、みずからの腕と知恵で生きていくのだという心がまえをもって知恵を絞る。難しいことではあるが、それをやり抜くところに、不況、困難をチャンスに変え、新たな発展への道を切りひらいていくことができるのである。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

 

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