本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<変化、ピンチへの対応> 理念あってのリストラ

松下幸之助の制度改革

昭和三十九年から四十年にかけての不況時に、当時松下電器会長の職にあった松下幸之助は、病気療養中の営業本部長に代わって第一線の指揮をとり、販売制度をはじめ抜本的な改革を行なった。その実施にあたって、販売会社、代理店、販売店に対する説得は困難をきわめたが、松下は粘り強く説得に努め、ついに全社、全店あげての協力体制を敷くことに成功し、新制度を実施した。その結果、松下電器は不況を乗り越え、業界も立ち直ることとなった。

 

そのときのことを回想して、松下は、「何のための商売かということを考えたとき、この改革はひとり松下電器のためだけではない、業界、いや社会全体のためだという信念と勇気が生まれて、断固たる態度で改革を推進することができた」と語っている。

 

何のためにするのか

平成不況をへて、なだらかな好景気が続いている現在においてもなお、産業界では、手綱を緩めることなく、不断のリストラが進められている。事業提携や合併、分社化、人員削減や配置転換、設備廃棄、非収益部門からの撤退と得意分野への経営資源の集中など、その内容は各企業、業界のおかれた状況によってさまざまである。

 

それらの善し悪しについては、簡単には論評できないが、ただリストラを、対症療法的に、場当たり的に行うといったことは避けなければならない。リストラは、家にたとえれば、単なる増改築ではなく、いわば家を建て替えるほどの抜本的改革を目指すものであり、事業の盛衰を左右するほどのきわめて重要な意味をもつものである。

 

したがって、長期的な視野に立って、それぞれの企業のもっている人、物、金といった経営資源が最大限に生きるように、そして、将来の成長、発展に通ずるリストラになるよう方向を定め、実行していくことが肝要である。

その場合、大切なのが、冒頭の松下のような経営者の確固たる信念ではないか。

 

もとより、どのような方向に向かってリストラを行うか、その決断を下し、方向を定める際には、会社の現状をよく認識することが大切である。製品、販売、人材、資金等の状態が今どうなのか、それらを一つひとつ点検し、実態をありのままに把握したうえで経営戦略を決定し、進むべきは進み、退くべきは退くことが大事なことはいうまでもない。

 

しかし、より大切なのは、何のためにこれをやるのか、この会社をどうするのか、という基本方針、経営理念であろう。その裏づけがあってこそ、そしてその理念が信念にまで高まってこそ、はじめて事業の再構築も誤りなく、確実に進めていくことができるのではなかろうか。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

 

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