本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<人材育成と組織つくり> 人を育てる基本

人間はみな無限の可能性がある

企業経営には金も大事、物や土地も大事。しかしその根本となるのは、何といっても人間、人材である。いくら資金が豊富でも、設備が整っていても、生かす人がいなければ、それらはないに等しい。

 

どのような人材を育てるか。それは企業により、あるいは、業種、職種により異なるであろう。また、経営環境や時代によっても、求められる人材の素質、条件は変化していくであろうが、いずれにせよ企業の盛衰は人次第、人さえ育てていれば、どんなことがあっても、企業は永遠に生き延びていくことができるともいえよう。

 

その人材をどう育てるか。これまで数多くの経営者や学者の経験と研究のなかから、ソフト、ハード両面でさまざまなノウハウが生み出され、今日いろいろなかたちで実践されている。もとよりそれらはそれぞれに有効であろう。が、それらを行う前提、人を育てるうえで、経営者・責任者として基本的に大切なことがあるのではないか。

 

それは、人間はだれでもみなそれぞれに無限に伸びる可能性、潜在能力をもっている、信頼に足る存在だという見方である。そういう信頼感に立って社員に接し、それぞれの素質、才能を見つけ出す努力をすれば、社員はそれに応えようと全知全能を発揮しようとする。それが人間というものであろう。

 

そうした人間観のもとに、教育施設をつくるなり研修制度を整えるなり、それぞれの人に合った育成の仕方を工夫する。そしてあきらめず、根気よく努力を続けていってこそ、着実に人が育っていくのではなかろうか。

 

社員が自発的に自己啓発に取り組む環境を

もっとも、人間は本来みずから育とうとするものである。外からの働きかけは一つのチャンスにしかすぎないのであって、それを活用するかどうかは、あくまでも本人次第という見方もできる。

 

そうであれば、その育とうとする芽を摘まないように、芽がよりよく育つ環境をつくること、いいかえれば、どうすれば社員一人ひとりが喜んで仕事に取り組むか、向上意欲をもって努力するかということに十分に意を用い、それぞれの社員が自発的に自己啓発に取り組むようにしていく。そのようにして、社員がもてる能力を高め、発揮しやすいような環境をつくることが、経営者・責任者の大きな義務といえよう。

 

そういった環境つくりもせず、また根気よく磨きもせずに、“あいつはダメだ”“うちの社員はできが悪い”と決めつけて、その人が本来もっているせっかくの才能の芽を摘み取っているようなことはないか。そんな観点から、人つくりについてあらためて省みてみたい。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

 

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