本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<人材育成と組織つくり> 人間第一の視点

松下幸之助が考える組織と人との関係

「組織を変えて人を使うか、組織をそのままにして、それに合う人をもってくるか。現実の問題としては、ケース・バイ・ケースでしょうな。しかし、ぼくは、それでも人のほうが大事だと思いますね。人によって組織を変えねばいかん。組織はある程度自由に変えられますな。人は自由に変えるわけにはいかんでしょう。同じような人は一人しかいないもの。その人を生かそうと思って、この組織ではいかん、ということになったら、その人に向くような組織をつくったらいい。少なくとも、人を使い、人を育てるということのためには、そこまで徹しなきゃいかん」

 

組織と人との関係について尋ねられたときの松下幸之助の言葉である。松下の言をまつまでもなく、どれほど理想的と考えられる組織であっても、人を得なければ生きてこない。まさに人あっての組織であり、企業である。いかに個々人の能力を生かせる、活力ある組織をつくれるか、それが企業の消長を大きく左右することになる。

 

したがって、組織は時代や環境の変化に応じて柔軟に変えていかなければならないが、いかに変化に機敏に対応し、組織を変えていくとしても、つねに基本にあるべきは、こうした“人間第一”の考え方であろう。

 

人を使い、生かすには

これはひとり組織にかぎらない。人事施策にしても、終身雇用や年功序列がよしとされたり、成果主義が好ましいとされたり、その時どきでかくあるべしといったことが盛んに論じられるが、人間の本性が変わらないかぎり、人間を第一に考えることの重要性は不変であろう。やはりそれぞれの人の能力や持ち味が最大限に発揮されるように、さまざまな人事施策が講じられなければならない。

 

人間というものは、複雑微妙な心をもっている。だから、人を使い、生かすには、人間とはいかなるものかということをしっかりつかむこと、つまり人間の本質を知り、人情の機微をわきまえることが大切である。そのうえで、経営理念や目標、方針といったものを明確にする。さらには一人ひとりの個性、持ち味に合った使い方、いわば適材適所を心がけるといった、古今、洋の東西を問わず普遍的なことを着実に実践すれば、社員は気持ちよく働くであろう。

 

こうしたことを忘れ、近視眼的、場当たり的に組織や制度を変えるような施策を行えば、社員はやる気をなくし、その効果のほどは多くを望めまい。
変えてはならないものを変えていないか、人間第一を基底に、いま一度よく見きわめたいものである。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

 

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