本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<人材育成と組織つくり> 人間通になる

松下幸之助流・責任者の行き方

 あるとき、松下幸之助が、「君のとこ、今、部下が何人おるのや」と、ある課長に尋ねた。
「主任が三人おります」
「その三人は、君のいうことをよく聞いてくれるか」
「はあ、よく聞いてくれます」

 

 すると松下はこういったという。
「それは結構や。ところで君な、ぼくはいろいろ決裁しておるやろ。しかしな、ぼくが初めからこれでいいと思って決裁しているのはだいたい四割ぐらいやで。あとの六割は気に入らんところもあるがオーケーしているんや。
 しかしな、君、そのオーケーしたことが実現するまでに、少しずつ自分の考えているほうに近づけていくんや。もちろん、命令して自分の思うように事を進めるのも一つの行き方ではあるけどな、一応決裁はするが、そのあと徐々に自分のほうに近づいてこさせるのも、責任者としてのまた一つの行き方だと思うんや」

 

 経営者・責任者の果たすべき役割は数多くあるが、なかでも重要なのは、いかに社員の意欲を高め、能力を最大限に引き出すかということであろう。一人ひとりが意欲と能力を存分に発揮してこそ、企業として力強い発展が可能となる。

 

社員が喜んで仕事に取り組むようにするには

 ではどうすれば、そのような姿を生み出すことができるのか。その心がまえなり方法はいろいろあろう。が、まず前提となるのは、やはり人間とはどういうものか、人の心はどんな動き方をするものかということをよく知ることではないか。人間の本質、人情の機微をわきまえた働きかけができれば、社員は喜んで仕事に取り組むようになる。

 

 たとえば、さきの松下のように、提案などをすぐ却下するのではなく、やりたいようにやらせながら、徐々に自分の思う方向にもっていくというのもその一つであろう。だれでも提案やアイデアが受け入れられればやる気が出るものである。

 

 また、適性に合った仕事につけば、楽しく仕事ができるし、信頼され、責任と権限が与えられれば、意気に感じて、その責任を全うしようと自分なりに創意工夫を働かせる。人に認められれば、それが励みになって、さらに努力を重ねるようになるし、短所、欠点を指摘されるよりも、長所をほめられたほうがうれしい。

 

 要は、人間はだれでも、やる気さえ起こせば大きな力を発揮する、という見方に立って、人間の心の動き、社員一人ひとりの性格や考え方を日ごろからよく理解、把握しておくということではなかろうか。
 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

 

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