本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<人材育成と組織つくり> 後継者選びの要諦

後継者選びで大切なことは

 事業を次代に存続、発展させていくためには、優秀な後継者が必要である。経営者は、後継者の選定と育成をつねに念頭において、日々の経営を進めていかなければならない。後継者にふさわしい者を見いだし、育て、適当な時期に交代することができてこそ、経営者としての責任を真に果たしうるといえよう。

 

 だれを後継者に選び、どう育てるかといったこと、あるいは後継者としてふさわしい資質、譲るタイミングについては、その会社の規模や業種・業態、さらには経営環境や風土など、会社のおかれた状況や歴史で違ってこよう。たとえば、普通であれば、後継者は社内からの登用ということになるが、場合によっては、社外から招かなければならないかもしれない。タイプとしても、よくいわれるように、いわゆる信長型がよい会社もあろうし、秀吉型、家康型がよい会社もあろう。あるいは、経営者の要件としてあげられる人間的魅力や人望、決断力、統率力、先見力、カリスマ性、企業家精神なども、何がいちばん重視されるかは、会社によって異なってこよう。

 

 しかし、そうした経営者としての資質、器量を見きわめるのが、なかなか容易ではない。経営者としての能力が、あらかじめ一〇〇パーセントわかるといったことはありえない。となれば、それなりのことがやれる力量と見識を備えていると思う人に、思いきって任せていかざるをえない。

 

“公”と“私”の葛藤にいかに打ち勝つか

 その場合に大切なのが、私情、私心にとらわれずに判断することである。
 いうまでもなく、会社は経営者個人のものでも同族のものでもない。かたちは個人経営、同族経営であっても、公の人、物、金を使って経営を営み、社会のなかに存在している以上、いわば公の機関である。その公のものである会社の本来の使命の達成、あるいは多くの従業員とその家族の生活を双肩に担っている責任を考えれば、自分の利害や感情、好き嫌いで会社を託す人を選ぶことは許されない。

 

 とはいうものの、人間は一面、弱いものである。公の心で後継者を選ばなければならないとわかってはいても、ときに私情、私欲にとらわれる。とくに創業経営者であれば、自分の息子に継がせたいと思う。あるいは、後継者の指名にあたって、自分の影響力を温存したいと考える。それが人情の一面であろう。

 

 しかし、それだけになお大事なのが、そうした”公”と”私”の葛藤に、いかに打ち勝っていくかである。自分個人の欲望や感情、利害といった私心を離れ、”企業は公のもの”という観点に立って、わが社にとって最もふさわしい人を後継者に選ぶ。難しいことだが、それができてはじめて、経営者としての最後の仕上げが成ったといえよう。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

 

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