本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<人材育成と組織つくり> 耳を傾ける

よいことよりも悪いことを

 経営者・責任者が事を進めていくにあたって、社員からいろいろな意見や情報を聞きながらやっていくことが大切なのはあらためていうまでもない。どんなにすぐれた人でも、その知恵には限りがある。その限りある知恵で事を判断し、処理していけば、往々にして独断に陥り、誤りを犯しやすい。やはり誤りなく事を進めていくためには、できるだけ人の意見に耳を傾け、衆知を集めることが大切である。

 

 その場合、とくに大事なのは、よいことよりも悪いことを聞くという姿勢であろう。

 賞賛の言葉、うまくいっている情報であれば、ただ聞いておくだけでいい。しかし、こんな問題がある、ここはこうしなければいけない、といったことがあれば、即刻何らかの手を打つ必要がある。けれどもそれが経営者・責任者の耳に入ってこなければ、手の打ちようがない。

 

 ところが、そういった悪いことはなかなか伝わりにくい。だれでも悪いことよりよいことを聞くほうがいい。よいことを聞けば喜ぶが、悪いことを聞けば不愉快になる。だから、いきおい社員・部下もいい話しかもってこなくなり、その結果、真実がわからなくなってしまう。

 

 徳川家康は「主君に対する諫言は一番槍よりも値打ちがある」といっている。一番槍は武士にとって最高の名誉とされたが、諫言にはそれ以上の価値があるというわけである。これは、諫言というものは、それほど貴重で、しかも実際にするのが難しいということでもあろう。

 

提案や情報を得るために上に立つ者がすべきこと

 したがって、上に立つ者は、できるだけそうした諫言なり悪い情報を求め、社員がそれを出しやすい雰囲気をつくっていかなければならない。提案や諫言を快く受け入れ喜ぶ姿勢が経営者・責任者にあれば、社員は進んで提案し、悪い情報ももってこよう。

 

 さらにいえば、そうした情報は、待っているだけでなく、みずから積極的に取りに行くことも大事である。東芝元会長の土光敏夫氏も、石川島重工(現IHI)の社長として会社再建にあたったとき、ひまをつくっては工場を歩き回り、だれ彼となく呼びかけ話を聞いた。そして、社内のあらゆるところから提案を出させ、よいと思うとすぐ実行に移したという。

 

 このように謙虚に耳を傾ける努力を地道に重ねていくことが、経営者・責任者には必要であり、そこから衆知が集まって、活力ある組織も生まれてくるのではなかろうか。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

 

関連書籍

下記書籍では、本コラムの内容に加え、古今東西の経営者・実業家の名言も紹介しています。

リーダーの心得ハンドブック

(こちらは現在、電子書籍のみの販売となっております)