本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<人材育成と組織つくり> トップの役割、番頭の役割

松下幸之助がフィリップス社を提携先に選んだ理由

 昭和二十七年、松下電器はオランダのフィリップス社と技術・資本提携を結んだ。数ある欧米企業のなかからフィリップス社を選んだ理由の一つを、松下幸之助は取材の記者にこう語っている。

 

「フィリップスがとくにいいと思ったのは、フィリップスに、ぼくの会社でいうたら髙橋(荒太郎)みたいな人がおるんですわ。その人に会って話をしたら、非常によく商売を知っている。真の経営者ですな。かゆいところに手が届くような応対をしてくれた。これは信頼してええな、という感じがしましたね。その人は、創業者に仕込まれて大番頭になった人ですわ。非常に親身になってものをいってくれる。それが非常にええ。人柄といい商売の進め方といい、非常に立派だと思った」

 

 髙橋荒太郎氏は、松下電器の大番頭といわれた人である。
 トップがいかに統率力や先見性にすぐれていても、すべてを一人でこなすことは不可能である。組織を動かし、経営を維持、発展させていくには、それを支えるいわゆるナンバーツー以下の補佐役が欠かせない。

 

優秀なナンバーツーを得るには

 ナンバーツーに求められる資質なり要件というものは、その会社の歴史や規模、トップの資質や性格などによってさまざまに異なるであろう。ひと口にトップといっても、そのタイプは実にさまざまであり、したがってナンバーツーに求められる資質、要件も同一ではない。大事なのはその組み合わせであり、それによって両者の間にいかによき補完関係を築けるかどうかである。

 

 そのためには、トップは、自身の資質なり性格を冷静に分析して、自分に足りないところを補佐してくれる人を側におくよう努めることが大切であろう。一方、ナンバーツーは、必要時に的確に補佐できるよう、トップの性格やおかれた状況をよく知り、その意を体して、人、物、金などの経営資源が最大限に生きるように、みずからの役割を果たしていく。もちろん場合によっては、トップのため、会社のために、直言、諫言も辞さない。

 

 そのようにして、それぞれがその持ち味を生かしつつ、それぞれの役割を自覚、実践するとともに、互いに相手を正しく認識し、尊重しあう。そうしたなかから、よき補完関係と信頼関係が築かれ、安定した経営と、さらには冒頭のフィリップス社のような対外的信用といったことにもつながっていくのではなかろうか。

 

 そういった人を、トップが育てうるかどうか、あるいは見いだしうるかどうか。それは縁とか運といったこともあるであろう。しかし、やはりまず、トップに“強く求める心”があってこそ、それが可能になるといえよう。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

 

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