本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<人材育成と組織つくり> 打てば響く機動性

中小企業の強み

1.顧客の要望の変化に気づかない
2.現場や営業の第一線の状況がつかめない
3.市場や顧客の変化への反応が遅い
4.各部門、事業所間の連携活動がとれていない
5.トップの方針・指示が徹底していない
6.下からの報告、連絡、相談が遅れる
7.マイナス情報がトップに伝わらない
8.会議が多いが、決定事項があいまいにされる
9.新しいことより慣行や前例が重視される
10.本社向けの業務が優先される

 

 これらは、大企業病の症状として警戒すべき状態だという(木村忠治『小さな会社のマーケティング』PHP研究所刊)。確かにどれも大企業が陥りやすい点であろう。これは見方を変えれば、小さな企業体はこうした傾向が少ないということでもある。

 

 一般に、中小企業は弱いものだといわれる。大企業に比べて、資金が乏しく、設備などに大量の資金を投入できないし、優秀な人材も集まりにくいといった一面もある。
 しかし、厳しい経済環境下にあっても、大企業に決してひけをとらない、というよりむしろ、減収減益に苦しむ大企業を尻目に、大企業が足元にも及ばない好業績をあげている小さな会社が少なくない。

 

 実際、それらは、小回りがきくという小さな会社ならではの強みを生かしている。変化する市場や環境に機敏に対応し、大手が手を出しにくいニッチ(隙間)市場をねらって、アイデアを生かした製品開発やサービスをするなど、独自の技術やシステムを武器に内外の市場を開拓して、その分野で圧倒的なシェアを誇っているところも多い。即断即決で、即座に行動に移し、あっという間にマーケットを制覇して、大企業が進出したときには、すでに価格が圧倒的に下がっていて、大企業といえども、いや大企業だからこそ、とても追いつけないというわけである。

 

一人ひとりの能力が存分に生かせる組織を

 こうした“打てば響く”といった中小の特徴は、今日のような変化の激しいなかにあっては、ますますその強みを発揮するであろう。
 しかも、人間の常として、大きな組織だと、ついお互いに依存心が生まれ、一人ひとりの責任がうやむやになりがちである。だからもてる能力も十分に発揮されにくい。その点、組織が小さいと、一人ひとりの能力を一〇〇パーセント生かさなければ会社はやっていけないし、実際に一〇〇パーセント、やり方によっては一二〇パーセントも生かすことができる。そういったことを考えると、規模の拡大を追求するのは、理にはずれた姿といわざるをえない。

 

 経営者には、人間の本性に基づいて、それぞれの活力が存分に発揮されるような組織つくり、物つくりがつねに求められているのである。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

 

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