本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

 

<ゆとりと活力を生む経営> "日に新た"の心がまえ

激動の時代に大切なのは

 毎年、年末から年始にかけて、エコノミスト、シンクタンクによる新年の景気見通しや円相場の行方などの経済予測が新聞・雑誌等を賑わす。それらを見ると、景気に関して悲観論と楽観論がともに見られたり、円相場についてもさまざまな異なった数値が出たり、ときには円高・円安、相反する予測がなされることもある。経済成長率の予測も数値にかなりの幅があり、途中で修正されたりすることも少なくない。しかしそれでも、なかなか予測は当たらない。これは、経済というものが、それだけ不確実な要素が多く、先が読みづらいということであろう。

 

 しかし、そうした不透明のなかにあっても、時代や環境の刻々の変化を読み、的確な手を打って、発展への歩みを進めていかなければならないのが経営者である。その責任たるや、文字どおり重かつ大なるものがあるわけだが、激動の時代に立ち向かう経営者にとって、とくに大切な心がまえの一つは、“日に新た”ということであろう。

 

 中国古代の殷王朝をひらいたといわれる湯王は、日々使っていた盤(洗面器のようなもの)に、「苟に日に新たにせば、日々に新た、また日に新たなり」という言葉を彫っていたという。今から三千年も四千年も昔のことだというが、そのころは、時代の変化はきわめて緩やかであったと考えられる。そうした時代にも、すでに日に新たでなければならないとみずからを戒める指導者がいたのである。

 

たえず自分を戒め、励ます

 ましてや今日は、すべてのものが激しく移り変わる日進月歩の時代である。きのう是であったことが、そのままきょうも是であるとはかぎらない。そうしたなかで、十年一日のごとく同じことをくり返していたのでは、成功は到底おぼつかない。経営者にはやはり、世の中の動きを敏感に察知し、刻々に新しい考え方を生み出し、適切な方策を講じていくことが不可欠で、そのためには、何よりもまずみずからが、日に新たであるよう心がけなければならない。

 

 過去の考え方、これまでのやり方にとらわれることなく、日に新たな観点に立ってものを考え、事をなしていくことがきわめて肝要であろう。
 とはいうものの、大切だとわかっていることでも、なかなか実行できないのがまた人間である。ついつい惰性に流され、現状にあぐらをかいてしまう。それも避けがたい人間性の一面ではあろう。しかし、だからこそ、なおのこと、「このままではいけない。日に新たでなければならない」と、たえず自分で自分を戒め、励ましていく必要があるといえよう。

 

 日に新たでなければならないという思いを、みずからの心の盤にあらためて刻み込みたいものである。

 

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

 

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

 

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