本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

<ゆとりと活力を生む経営>スピードを尊ぶ

ほんとうに立派なサービスとは

 かつて、松下幸之助が行きつけの散髪屋さんに行ったとき、店員さんが、「きょうはとくにサービスして念入りにやりましょう」といって、いつもなら一時間で終わる散髪を、一時間十分かけてていねいにやってくれた。つまり、サービスだということで、十分間多く手間をかけてくれたのである。

 そこで松下は、散髪が仕上がってから冗談まじりにこういったという。
「君がサービスしようという気持ちでいることは非常に結構だと思う。しかし、念入りにやるから十分間よけいに時間がかかるということでは、忙しい人にとっては困ることになりはしないか。もし君が、念入りに、しかも時間も五十分でやるというのであれば、これがほんとうに立派なサービスだと思うのだが......」

 現代はスピード時代である。あらゆる面で変化が激しく、一刻一秒が尊いのは昔の比ではない。こうした、まさに"時は金なり"の今日において、企業経営に最も重要なものは、いうまでもなくスピードであろう。

正しくしかも速い決断を

 めまぐるしい環境の変化、市場の変化に迅速に対応できる組織とシステムを確立し、需要者の求めている新しい製品なりサービスをすばやく提供していかなければ、企業の存続、発展は望めない。今やスピードそのものが競争の強力な武器になっているのである。

 そのため、各企業では、ITをうまく使って、仕事のスピードを速めたり、在庫の回転率を高めたりしている。たとえば、顧客が端末を使って注文すると、翌日にはもう納入ができるようにしたり、売れ筋情報を利用して、少ない在庫でより大きな売上げをあげることができるようにしている。発注、生産、配送、販売のサイクルのスピードを上げることで、売れ残りのロスを少なくでき、機会損失を減らすことができるというわけだ。

 もっとも、そうしたITの発展によって、情報のやり取りのスピードが速くなればなるほど、それを生かすためのより正確かつ迅速な決断と行動というものが求められるようになってくる。つまり、正しくしかも速い決断と行動が、せっかくの情報を生かしもし、殺しもするのである。

 そうした正しくしかもすばやい決断のためには、何よりも経営者に、判断の基準となる明確な座標軸が必要であろう。スピードが速ければ速いほど、それがしっかりしていないと、右に揺れ、左に揺れて、あらぬ方向に行ってしまいかねない。

 みずからの座標軸をしっかり定め、即断即行できる勇気と見識を日ごろから養い高めたいものである。

◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

関連書籍

下記書籍では、本コラムの内容に加え、古今東西の経営者・実業家の名言も紹介しています。

リーダーの心得ハンドブック

(こちらは現在、電子書籍のみの販売となっております)