本コラムでは、松下幸之助をはじめとする日本の名経営者・実業家の考え方やことばを紹介しながら、リーダーとして心得ておきたい経営の知恵を解説します。

<ゆとりと活力を生む経営>つねに自己変革をはかる

日本的経営の評価

 戦後、日本企業、とくに製造業は、欧米先進国からさまざまなアイデアや技術を導入し、それを消化吸収、改善することに力を注いで、世界に冠たる国際競争力を獲得した。それは、終身雇用や年功序列、労使協調、平等主義といった、いわゆる日本的経営が、従業員の企業への帰属意識を高め、生産性の向上などに大きく寄与した結果でもあった。


 しかし、その後、それまでうまく機能していた日本型システム、日本的慣行が逆に足枷となり、企業の構造転換を遅らせる面も出てきたため、それまで賞賛の的であった日本的経営が批判に曝されたり、しばらくしてまた見直されたりと、日本のシステムに対する評価は今なお揺れ動いている。


 だが、万能のシステム、組織などあろうはずがない。あらゆるものにはプラス面とマイナス面があり、ある時代に成功の要因だったものが、ある時代には失敗の原因になることも少なくないのである。

「第二の創業」の思いで

 したがって、企業が成長、発展し続けるためには、たえずみずから変身していかなければならない。とくに、今日のような変化の激しい大転換期には、これまで以上に、自己変革をはかり、経営全体の革新を徹底して進めていく必要がある。


 そのためには、企業は、従来の枠組みを否定し、これまでとは異なった新しい事業や組織、仕組みなどの創造に取り組まなくてはならない。


 経営者が、そうした自己変革、新たな創造の価値を認識し、具体的な方向を描き出す。時代の流れを読み、このままでよいのかをつねに問い返す。みずからの見識に基づいて衆知を集め、会社の進むべき方向、目標を明確に設定し、ビジョンを示し、企業戦略を練る。そしてその目標や進むべき道を従業員に訴え、共鳴を得、実現に向かって、全員の力を合わせて事業を推進していく。


 経営者は、大きく変化するこの時代に"経営の舵取り"ができることに、むしろ大いなる喜びをもって、これに取り組んでいくことが大切であろう。「第二の創業」の思いで、二十一世紀のビジネス社会に、わが身と組織を適応させ、少しでもみずからの理想に近づけるべく努力をする。これから成功する経営者は、そうしたビジョンをもち、リスクを受け入れ、果敢に変化に挑戦していく人物ではないか。


 企業は、過去は過去としてありのままに評価しつつ、未来への布石を着実に打たなければならない。過去の何を切り捨て、何を新たに選択するのかをつねに考え行動していく。そのようにして自己変革を成し遂げることができる企業だけに、二十一世紀の繁栄が約束されるといえよう。


◆『部下のやる気に火をつける! リーダーの心得ハンドブック』から一部抜粋、編集

筆者

佐藤悌二郎(PHP研究所客員)

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