自然素材や省エネ仕様の注文住宅、リフォームなどを手がけるALLAGI(アレジ)株式会社。昨年、谷上工務店から社名変更し、新たな一歩を踏み出した。住宅事業から不動産事業や介護事業へとビジネスを広げ、順調に事業の多角化を果たしているように見えるが、今から十数年前、同社は会社存続の危機に立っていた。それをどう切り抜け、成長路線へとつなげていったのか。谷上元朗社長、谷上富彦専務(ともに「松下幸之助経営塾」卒塾生)に聞いた。

とらわれない心で事業と社員を育てる(前編) からのつづき

経営セミナー松下幸之助経営塾

<実践! 幸之助哲学>
下請け工務店から多事業展開の成長企業へ――後編

「月々5万円」の身銭に望みを託す(2)

二人がまず着手したのは商品づくりだった。商品がないと、どんな材料の家がいくらで建てられるかがお客様にわからない、というアドバイスを受け、二人は三カ月で「ベーシック」「ナチュラル」という商品を考案した。商品化によって材料を標準化することができ、コストダウンを図れたのも大きかった。

 

「取引先や協力会社の方々には、事業計画を見せながら『私たちの会社は、これからこんなふうに成長していきます』と説明し、コストダウンのお願いをしていきました。『そうか、そんな新しいことに挑戦するのなら協力する』と皆さん言ってくださった。嬉しかったですね」

 

しかし、二人が何よりも心配だったのは集客だ。商品ができて二カ月後、家づくりの現場にお客様を案内する現場見学会を企画したものの、元朗さんも富彦さんも、「本当に見学会に来てくれるだろうか」と半信半疑だった。とはいえ、コンサルタントにもらった「集客力の高いチラシの事例」をたたき台にチラシをつくり、周辺地域に五万部を配布した。

 

「でも、実のところ集客以上に心配だったのが、来てくれたお客様にきちんと商品を紹介し、受注に結びつけられるかどうかでした」と元朗さんは告白する。まともな営業活動などしたことがない自分たちに注文が取れるのだろうかと、不安でたまらなかった。

 

現場見学会当日。二人の心配をよそに一五組ものお客様が足を運んでくれた。そのうちの一組が、実際に家づくりの契約を結んでくれた。初の受注だ。あとに続くように、ほか二組も契約。結局、一五組中三組という高確率で受注が決まった。
契約してくれたお客様のもとに何度も通い、家づくりの打ち合わせを重ねる日々が始まった。ただ、元朗さんは言う。

 

「お恥ずかしいことに、お客様を訪ねるのがこわくてたまらなかったんです。弟を誘って行けばなんとかなるだろうと思い、二人でお客様を訪問したこともあります。いい大人が二人で一人前だったんですよ(笑)」

 

一年後、蓋を開けてみたら、七棟もの受注を獲得していた。この結果に一番驚いたのは、当の元朗さんと富彦さんだ。
「事業計画には、初年度七棟、二年目一五棟を受注すると書き、それを持って取引先や協力会社にコストダウンのお願いをして回りましたが、本当にこの数字を達成できるかどうか、全く見通しは立っていませんでした。でも一年終わってみると、事業計画通りになっていた。このあたりから、気持ちが完全に切り替わりました」

 

新しいことに及び腰だった姿勢から一転、次のステップに向かってチャレンジする意気込みが生まれた。元朗さんは言う。
「変に自分たちの考えを入れたりせず、教えられたことを素直にやったことがよかったんだと思います。二年目を迎える頃は、一五棟を達成するぞ!という気合いに満ち溢れていました」

松下幸之助経営塾資料

人の成長が会社の目的

こうして大手メーカーの下請けから、注文住宅を直接受注する元請けへと脱皮し、順調に売上を拡大していった同社。そんな中、創業者の父に代わって経営トップを継いだ元朗社長の胸に、ある思いが浮かぶようになった。「胸を張って経営するために、次のステージへ進みたい」。松下幸之助経営塾の存在を知ったのは、そんな時だった。「勢いのある会社の経営者が、こぞって学んでいたのが松下幸之助経営塾。その頃はもう、コンサルやセミナーに投資することに、何のためらいもありませんでした」。

 

平成二十五(二〇一三)年、元朗社長が入塾。その三年後、富彦専務が入塾している。塾での学びで最も糧になったことは、経営の王道をあらためて認識できたことだと元朗社長は話す。「王道とは、当たり前のことを当たり前にする、ということです。でもこれが一番難しいと実感しています」。

 

元朗社長の「当たり前」とは、人を大切にすること。その思いは、同社の理念や事業目的にくっきりと表れている。
同社の理念は、「家づくりを通してそれに関わるすべての人々を幸せにする」。以前は、「心を込めていいものをつくり、お客様に谷上工務店で建ててよかったと思われる会社、社員が自分の仕事に誇りを持てる会社になる」という理念を掲げていたという。

 

「当社が下請けから元請けへと転換する時に弟と一緒に考えたのが、最初の理念である『心を込めて……』です。創業者である父は、お客様に信頼されながら、一棟一棟の家を丁寧に建てていました。その後ろ姿を見て育ったので、心を込めたものづくりの大切さは、二人ともよくわかっていました」

 

やがて元朗社長は、いいものづくりをする上で最も重要になるのが「人財」であり、人を育てることが「人を幸せにする」ことにつながると思い至る。

 

「現在の理念の中に『すべての人々を幸せにする』とありますが、『すべての人々』の中には、お客様や地域の皆様だけでなく、当社の社員も含まれています。私は、当社の社員がまず幸せになることが、お客様や社会を幸せにすると考えています」

 

社員が幸せになるために必要なことは、「自分で未来を切り開いていく力を育てること」。それを実現するために、同社は様々な人財育成の場を設けている。毎朝行なわれる「朝礼」。ここでは大勢の前で自分の考えを伝えながら、お互いの価値観を共有する。そして随時行なわれる「面談」。マンツーマンで話を聞き、なりたい自分になるためのアドバイスをする。そのほか、月一回の全体会議や勉強会では、事業の状況を伝え合ったり、お互いをほめたり感謝を伝え合ったりしている。会議やミーティングは、衆知を集めるために開いている。

 

ALLAGI朝礼

毎日行なう朝礼

 

ALLAGI勉強会

月1回の勉強会

 

同社は平成二十六(二〇一四)年に不動産事業、二十八(二〇一六)年に介護事業に進出している。事業の多角化が狙いだが、実は「人をつくる環境の確保」という意味合いが強いと元朗社長は語る。
「社員の平均年齢は三十一歳と若いですが、一つの事業部を任せられるまでに成長した社員がすでに何人も出てきています。注文住宅事業だけでは成長した社員が活躍できるポストを用意し切れませんが、事業が複数あれば可能です」

 

事業部長に就任した社員には、その事業のマネジメント一切を任せている。任せることで、自分で未来を切り開いていく力が育つからだ。
引き続き注文住宅事業をメインにしながら、いずれは不動産部門もそれに匹敵する規模に育てたいと言う。住宅とは無関係に見える介護事業も、会社の経営を安定させるために重要だ。一生のうちで一回建ててくれたら御の字の注文住宅とは違い、介護サービスは利用者が繰り返し利用してくれる。だから業績の安定を図りやすい。

 

こうした何本もの柱を立てることで経営基盤を固めながら、人の育つ環境を増やしていく。それが元朗社長と富彦専務が目指す会社の姿だ。

松下幸之助経営塾資料

変化するものだけが生き残る

昨年、社名を谷上工務店からALLAGIに変更した。その理由を元朗社長はこう語る。
「一つは、『工務店』のイメージを一新したかったからです。工務店が決して悪いわけではないのですが、住宅以外の様々な事業を手がけている関係上、『工務店』というネーミングの枠から出たほうがいいだろうと考えました」

 

そしてもう一つは、会社の方向性を示すため、と話す。ALLAGIはギリシャ語で「変化」を意味する言葉だという。「一つひとつの事業は使命が終わればなくなってしまいますが、そうなったとしても会社はなくなってしまわないよう、事業を変化させていく必要があります」。また、ALLAGIの「I」を「E」にすると、「ALL AGE」となる。「つまり、全世代に求められる企業という意味になります。そんな含みも持たせての社名変更です」。

 

社名変更のいきさつを聞きながら、一つの疑問が頭をもたげた。元朗社長と富彦専務、考え方や方針のずれから、兄弟で言い争うことはないのだろうか。
「その質問、今まで何度もされてきましたよ」と笑う富彦専務。結論から言えば、理念や志の部分で二人が食い違うことはないのだという。

 

「ただ、経営のトップに立つ兄の視点や考え方がどういうものか、知りたいと思ったことはあります。兄に続いて松下幸之助経営塾に通い始めたのは、そんな思いがあったからです」

 

経営塾のカリキュラムの中で、富彦専務が忘れられない講義があるという。スーパーホテルの山村孝雄社長の講義だ。山村氏は、創業者である山本梁介氏の後を継ぎ、専務から社長に就任した人物だ。

 

「山村社長の『トップの考えを形にするのが専務の役割。トップとナンバー2は限りなく違う。トップが一度出した決断に、ナンバー2としてノーはない』という言葉が、鮮烈に私の胸に響いてきました。それまでも専務としての役割を果たしてきたつもりでしたが、山村社長の話を聞いて、あらためて覚悟ができました」

 

社長と専務がともに同じ経営塾で学んだことで、経営にとって重要なことを、無言のうちに共有していると感じるようになったという。元朗社長は、「学んだことすべてが、自分の体に染みこんでいる気がする」と言う。人を何よりも大切に考え、人財を育成することを会社の目的とする姿勢に、それは表れていると言える。

 

二人が奇しくも体験した、人のアドバイスや教えを実直に実践するという「素直さ」も、経営塾で学ぶ「素直な心」と通じるものがある。「素直な心」とは、とらわれのない心で世の中や事業を見ること。一つの事業や過去の成功体験にとらわれず、常に変化しようとする同社の中に、この心が生きているような気がする。

(おわり)

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