カキの養殖が盛んな広島県。その殻であるカキ殻を加工・再利用して循環型事業を実践している会社が広島市内にある。創業60年を超える丸栄だ。

1992年から創業者と息子がそれぞれ会長、2代目社長として経営を司ってきたが、2002年に両者が相次いで亡くなる。その後、社長に就任したのが2代目の妻、立木陽子さん(「松下幸之助経営塾」塾生)。当初は経営のイロハも知らなかった。しかし、創業者と夫の志を受け継ぎ、社長としての仕事に注力。社員からの信頼も得、社業は順調に発展を遂げている。その立木さんに、丸栄のこと、そしてご自身の経営に対する考えを聞いた。

 

熱意と努力でよく生きる(2) からのつづき

 

志を立てる
理念を力にカキ殻の循環型事業に邁進

経営理念を策定、志を継承する

PHP研究所の松下幸之助経営塾で、経営理念を確立し、社員に浸透させることの重要性を学んだ。義母に「丸栄の経営理念って何ですか」と聞くと、「そんなこと、考えたことなかったわ」という答え。ただ、創業者である穣氏がいつも「熱意と努力」を口にしていたという。
 
「私が経営理念として最初に考えたのが『よく生きる』。それに父の信条を加えて、『熱意と努力でよく生きる』としました」
 
「よく生きる」という表現を用いた理由として、志半ばで逝いってしまった穣氏と茂氏の存在がある。まだまだやりたいことのあった二人とは違い、私たちは生きている。だから、どんなにつらいことがあっても、できることをやらなければいけない。そんな思いが込められている。
 
さらに、「自分を大切にして、自分を生かす」という意味も含まれている。毎日の三分の一を会社で一緒に過ごす社員には、自分を大切にし、かつ自分とかかわるすべての人、物、時間も大切にしてほしい。そういう人が集まることで、強くてよい会社になるはずだと立木さんは考える。
 
夫の茂氏が亡くなったときに高校生と中学生だった二人の息子は、今はそろって会社を支える大人に成長した。二人とも、かつての茂氏のように、髪をホコリで真っ白にしながら工場に立っている。
 
「今いる社員は、息子たちを小さいときから知っている。夫の死後は、みんながお父さん、お母さんになって育ててくれた。私はほんとうに社員に恵まれていると思います」と立木さんは語る。穣氏と茂氏の志は、二人の息子の中にもしっかりと継承されているようだ。

 

さまざまな用途の可能性

二〇〇〇年に「循環型社会形成基準法」が施行され、企業にとって、循環型社会に向けた取り組みの重要性が高まっている。限りある天然資源を効率的に利用し、持続可能なかたちで循環させていくことが求められている。「カキ殻は究極の循環型資源」と述べる立木さんにとって、丸栄を循環型資源活用の手本になる企業に成長させたいというのが今の目標だ。
 
また、海中で多くの養分を取り込んだカキ殻は、飼料・肥料以外にさまざまな用途としての需要が高まっている。「カキ殻には、まだ私たちの知らない力がある」と、立木さんは目を輝かせる。
たとえば、カルシウムイオン水。カキ殻を一〇〇〇度の高温で焼いて抽出した高純度のカルシウムを含むカルシウムイオン水は、葉面散布用の液肥として利用されている。
 
さらに、カキ殻には水質を改善する効果もある。ヘドロに粉砕加工したカキ殻を混ぜると、有毒成分である硫化水素を吸着し、生物のすみやすい環境が整うという。実際、有明海の漁場改善などで効果を発揮している。
カキ殻の肥料となる粉を、別の用途に使用できないかと研究して生まれたのが、不燃性の路面吸着剤「カキケス」だ。高速道路などに燃料がこぼれた際に、引火の心配なく燃料を吸着して除去することができる。
 
ほかにも、学校等で使用する白線用の粉末「シェルライン」、人形や日本画の顔料など、カキ殻の用途はますます広がっている。「これまではBtoB(法人向け)が中心でしたが、今後は化粧品や食品などの日常生活に密着した分野に展開していきたい」と立木さん。今後の事業展開が楽しみだ。
 
「広島のカキ産業と共に発展する」という穣氏と茂氏の志を受け継ぎながら、時代のニーズに合わせた製品を生み出すことで社会に貢献していく。立木さんの挑戦はこれからも続く。
 
(おわり)
 
『PHP松下幸之助塾』2015.9-10より
 
 
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