数々の困難を乗り越えて発展させてきた会社をだれにどう引き継ぐのか。松下幸之助経営塾塾生の「事業継承(承継)」事例~銘建~をご紹介します。

 

「住宅会社」から「トータルライフ・サポートカンパニー」へ(2)からのつづき

 

継承する理念 脱皮する事業

山口の気候風土に適した家造り

二〇〇〇(平成十二)年、雄一郎さんの次男、青木隆行さんが入社、二〇〇二(平成十四)年に社長に就任した。関西で都市銀行に勤めていたが、銘建を継ぐためにUターンしてきたのだ。ちなみに隆行さんの兄(長男)は、青木産業を引き継いでいる。銘建の売上高は、それまで五~七億円で推移していた。ところが、隆行さんが入社した翌年の二〇〇一(平成十三)年には、三億円弱に激減してしまった。
 
「過去の成功モデルをなぞっているだけではダメだと痛感しました。たしかに、地域の皆様に良質な住宅を提供してきたという自負はあります。しかし、それは『これまでは』という話であり、『これから先』は自分たちの手で日々創造していかなければならない。引き継いでいきなり窮地に追い込まれたような気持ちでしたが、逆にこれでスイッチが入ったという面はあります」
 
と隆行さんは語る。その言葉を証明するかのように、翌年には七億円台を回復。近年では、住宅着工戸数が低迷するなかでも、コンスタントに十億円前後の売上を上げ、今や二〇億円の大台も視界に入ってきた。
 
銘建の家造りの特徴は「山口の気候風土に適した家」である。日本列島は南北に長く、地域によって多様な自然環境がある。「快適で住みやすい家」といっても、全国一律の仕様では本来はありえないはずだ。風が強いのか、雪や雨が多いのか、日照時間はどうか、季節による気温の変化、朝晩の寒暖差、湿度、地震や台風といった自然災害の多さ、その他さまざまな地域性や文化の違いなど、考慮すべき要素はたくさんある。ひと口に木造建築といっても、気候風土によって建築に適した木の種類も変わってくるのである。
 
山口の瀬戸内海側は、冬でも比較的温暖な地域だ。本州の中では緯度が低く、南側が海で開けているので日照時間が長い。雪が降り積もることはほとんどないが、台風が多いのと東南からの風が強いのが特徴だ。隆行さんは、下関の地方気象台まで足を運んで、こういった要素を細かく抽出し、銘建の家造りに反映させてきた。たとえば、雨風の影響を考慮して雨戸を付けたり、瓦の施工を強くしたりするなどである。逆に、広いバルコニーはあまり薦めてはいない。高齢化が進んでいる地域で土地は比較的安いから、無理に二階を造らず、平屋を提案することが多い。
 
工法や設計のノウハウは、これまでさまざまなフランチャイズに加盟することでも蓄積してきた。二〇〇〇年からはエアパスグループに加盟し、エアパス工法を導入している。エアパス工法とは、壁の内部に空気を循環させることで室内の温度と湿度を快適に保つもので、日本の木造住宅の伝統に現代の技術を加えた工法といえる。高気密・高断熱の住宅とは異なり、より自然に近い住環境をつくり出している。「山口の気候風土に適した家」という銘建のコンセプトにぴたりと合致したのが、このエアパス工法だった。
 
素材については、メインで使用するのは山口県産の木材である。山口県は中国山地の西端に位置し、昔から良質な木材の生産地であった。十二世紀末、奈良・東大寺を再建するにあたっては、防府市を流れる佐波川の上流から木材が切り出されたという。
 
地元の木材を使用することは、気候風土に適した家造りという目的に最もかなうだけでなく、地域の森林の荒廃を防ぎ、山が本来持っている保水力を保つなど、防災や環境保全の役割を果たすことにもなる。もともと製材業からスタートしている銘建では、木材業者との結びつきも強いので、たとえば出荷まで時間のかかる天然乾燥の木材でも確実に入手できるという強みがある。
 
なお、山口県には、新築住宅を建てる際、県内産の木材を一定以上使うと施主に対して補助金が出る制度がある(優良県産材認証制度)。この制度の活用棟数で、銘建は過去四年連続一位の実績を上げている。
 

「住宅会社」の概念を超えて

隆行さんの思いは「家は単なるハコモノではない」ということだ。家族が絆きずなを深め、人生の舞台を演出する根本の場所。それが、銘建が「家」と呼ぶものなのである。
 
日本の住宅の平均寿命は三十年とも言われている。これは耐用年数が三十年という意味ではなく、建て替えや取り壊しの平均年数が根拠らしい。隆行さんは、「コストを抑えるために造り方や材料選定を間違ったことが、住宅の短命化を招く大きな要因になっている」と見ている。住宅を「ハコモノ」ととらえ、目先のニーズが変化すればスクラップ&ビルドをくり返せばいいという発想で家が販売されてきた結果だといえるかもしれない。
 
「このまま短命な家造りを続けると、代が替わるたびに家を建て直さなければならず、そのたびに何千万円と支出することになります」
と隆行さんは警鐘を鳴らす。たしかに長い目で見れば経済効率は悪いし、環境問題という面から見てもよいことではない。
 
「私たちは、子の代、孫の代まで住み続けられる良質で長寿命の家造りをめざしています。これから家を建てる方には、価格の安さに惑わされず、快適・便利な機械や設備に目を奪われる前に、家造りとは何なのかという本質をよく考えていただきたいと願っています」
 
お客様に迎合して売上を計上しようとするのではなく、銘建が何のために家造りを行うのかが、この言葉に集約されているように思う。
銘建は、もとより規模の拡大をめざしてこなかった。また、経済の成熟時代を迎え、「売上拡大が至上命題の時代は終わった」(隆行さん)といえるだろう。
 
とはいえ今後、少子高齢化はますます進展し、特に地方においては経済規模の縮小化が加速していくと見込まれる。現に、山口県の住宅着工戸数は、消費税が五パーセントに引き上げられる直前の四割にまで落ち込んでいる。さらに、この四月から八パーセントに引き上げられ、今後に与える影響は計り知れない。ある意味、生き残っていくことのほうがむずかしい局面を迎えていくわけだが、銘建はどんな方向性を打ち出していくのであろうか。隆行さんに尋ねると、
 
「今までは、新築の注文住宅一本でやってきました。これからは住宅に派生してくるさまざまなサービスを提供していきたいと考えています。具体的には、リフォーム、インテリア、保険、不動産などです。これらを獲得していくためには、建てっぱなしではダメで、お施主様との末永い関係の強化が求められます。お施主様の暮らし全般でお役に立てる会社“トータルライフ・サポートカンパニー”をめざしていこうと考えています」
 
という答えが返ってきた。
 
かつての青木産業時代、先代社長の雄一郎さんは、製材業から住宅会社へと脱皮することに成功した。隆行さんの代で、今度は住宅会社からトータルライフ・サポートカンパニーへと、さらに進化を遂げようとしている。生き残るのは、強い会社でもなく、頭のいい会社でもない。変化に対応できる会社なのである。
 
鉄鋼大手のJFEが野菜を栽培したり、無印良品が家を販売したりするなど、会社の業態・業容は、従来の概念では収まり切らない時代に突入している。銘建が品質と人材の重視という理念を軸にしながら、来る時代の変化にどのように対応していくのか。誠実かつ真摯(しんし)に時代に挑もうとしている山口の会社を注視していきたい。
 (おわり)
 
◆『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2014年5・6月号より
 
経営セミナー 松下幸之助経営塾