数々の困難を乗り越えて発展させてきた会社をだれにどう引き継ぐのか。松下幸之助経営塾塾生の「事業継承(承継)」事例~銘建~をご紹介します。

 

「住宅会社」から「トータルライフ・サポートカンパニー」へ(1)からのつづき

 

継承する理念 脱皮する事業

数字ではなく人間力で競う

銘建は創業時、営業も施工管理も含めて十数名でスタートした。「少数精鋭」が雄一郎さんの方針で、社員数を増やして会社の規模を大きくしていこうという意思は、初めから持ち合わせていなかった。世の中、特に企業社会においては、“大きいことはいいことだ”という価値観がまだまだ主流だった時代だ。どうしてそのころから規模の拡大をめざさなかったのか。
 
「住宅会社というのは、地域密着型の企業です。防府は人口一〇万人くらいの都市で、毎年売上を拡大していくといってもおのずと限度があります。何をもって会社の成長というのか、それには各社各様の見方があります。大手には大手なりの努力の仕方があるでしょう。しかし、われわれのような一地方企業が、同じ指標を持つ必要はありません。私どもは施工数の多さや売上の大きさを競うのではなく、むしろ利益で勝負しようと。いかに付加価値を高めるか、すなわち品質を高め、工法を工夫し、いかにお客様に満足していただける家造りができたのか。それを指標にしてきました」
 
この考え方を社員および協力業者に理解してもらうために、雄一郎さんは常に心を砕いてきた。毎年、期の初めには社員一同を集めて合宿を行う。経営方針発表会では、八〇ページくらいの「経営基本構想並びに経営計画」という冊子が配られる。雄一郎さんの事業観、経営観、住宅会社としての使命をはじめ、今期は何を、どこまで、どのようにして達成するのか、各部署・担当別に社員には何を求めるのか、そしてその達成度合いの評価基準は何かなど、微に入り細を穿うがつばかりにまとめられている。
 
同じころに銘工会の総会も開催し、協力業者への事業報告や情報共有を行うとともに、銘建の理念・方針の徹底も怠らなかった。
雄一郎さんは言う。
 
「家一棟建てるためには、さまざまな職種の数多くの人たちに関わってもらわなければなりません。私がいくら『いい家を建てます』と言っても、私一人で建てることはできません。だから、どういう家を造るのかということを、関わるすべての人に徹底しておく必要があるんです」
 
山口県には大手住宅メーカーの工場もあり、市場的にはプレハブ住宅が強い。しかし、一生に一度の大きな買い物で、しかもこの先数十年暮らしていく住宅を購入するとき、いくら全国的に知られた会社とはいえ、見ず知らずの営業マンにすべてをゆだねることには躊躇(ちゅうちょ)する人がいたとしても不思議ではない。やはり地域に根差し、いつでも顔の見える担当者のほうが、いざというときの安心感があるはずだ。
 
ただ、どうやってその声をくみ上げ、その気持ちに応えていけばいいのか、それが各社の悩みのタネであり、知恵の出しどころである。雄一郎さんが行き着いたのは「結局、人の力しかない」ということだった。
 
どれだけ素晴らしい理念を掲げようと、施工技術がすぐれていようと、目の前で対応する人間の信用がなければ、お客様の満足は得られない。特に何か問題が生じたときに、ごまかしたり、言い訳をしたり、責任逃れをしようとすると、安い買い物ではないだけにお客様の不信感はたちまちふくれあがる。また、マニュアルどおり、筋書きどおりに事が運んでいるからといって、それはけっして仕事が順調に進んでいることを意味しない。お客様には声に出していない声、意識に上っていない要望というものがある。それを敏感に受け止め、適切な対応で返すことで、お客様は心の底から相手を信頼するようになるのである。
 
銘建が何よりも人材教育を重視してきたのは、事業とは人間が行うものであり、商売の根本は人と人との信頼関係であるという考えが原点にあるからだろう。
 
右肩上がりの成長時代が終わり、本物志向や人間力といった要素が、企業の浮沈のカギを握る時代になった。銘建は、そのような時代になるはるか以前から、これらを中核に据えて事業を行なってきた。そのことが、「経営基本構想並びに経営計画」の厚さと重みによく表れていると思う。
 
「住宅会社」から「トータルライフ・サポートカンパニー」へ(3)へ続く
◆『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2014年5・6月号より
 
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