【理念継承 わが社の場合】数々の困難を乗り越えて発展させてきた会社をだれにどう引き継ぐのか。松下幸之助経営塾塾生の「事業継承(承継)」事例~ニッコー~をご紹介します。
◆「本物の味」「安全な食」を次代に(2)からの続き
ナチュラルな流れで「第二創業」へ向かう品質重視の食品会社
「第二創業」へのスムーズな移行
組織としていくつかの課題は当然抱えているであろうが、ニッコーの事業継承はスムーズになされているように見える。そのあたり何か心得るところがあったのか、貞雄会長に伺ってみた。
「多くの中小企業経営者は、後継者に対してあえて厳しいことを言う方が多いと思います。特に相手が身内、家族の場合、甘やかしてはいけないという思いもあって、よけいにそうなりがちです。ところが、たとえそれが〝もっとよくなってほしい〟という親心からであっても、聞かされるほうは面白くありません。自分なりに考えて一所懸命やっているのに、それを批判されたと感じるからです。
ですから、お互いの関係がギクシャクしないためには、まずは相手のよい点を見ることが大切です。親は自分がひととおり道を進んできてよく分かっていますから、子どもの歩みを見てあれこれ言いたくなるのは分かります。しかし、それを指摘ばかりしていると、結局相手の悪い点、至らない点のみがクローズアップされることになります。
逆に、その人のよさを見つけて注視していると、よいところがどんどん伸びて、やがて悪い部分もカバーできるほど、その人は成長します。そんな考えでやってきました」
会社経営の中では、家族同士であっても、いや、家族同士であるがゆえに、折り合いが悪くなるというケースは少なくない。そんな問題解決のヒントが、ここにありそうである。また、貞雄さんのスタンスは家族経営という場のみならず、一般的な職場の上司・部下の関係としても、大事な点ではないだろうか。
ニッコーは今年、創立三十周年を迎える。それに先立ち、昨年十一月に「感謝の集い」を開催した。仰々しい式典などを行う予定はない。ただ、誠実に働いてきてくれた社員へのお礼の場を設けたいという貞雄さんの気持ちだった。
同時に、「第二創業は、後継者に任せた」という区切りの気持ちも持っている。貞雄さんが創業者らしく発想力豊かでグイグイと人を引っぱるタイプのリーダーだとしたら、社長の雅史さんは多くの人の話を聞いて知恵ややる気を引き出し、総合力を高めるタイプのリーダーといえる。
ニッコーは、リーダーシップの変化とともに、すでに第二創業期に差しかかっているようだ。雅史社長の代からは、契約農家から仕入れるだけでなく、自社農園も持つようになっている。みずからの手で作物を育てることで、本物の味をさらに追求していこうというのだ。ニッコーの品質に対する徹底した姿勢を垣間見る思いがした。
「品質第一」は、多くの企業で聞かれるスローガンである。問題は、それがかけ声だけに終わっていないか、現場でほんとうに実践されているかどうかである。いったんわずかでも妥協がなされると、堤が切れたようになし崩し的に崩壊してしまう。そうやって信用が失墜した企業は枚挙に暇いとまがない。
「品質には絶対に妥協するな」
後継者のやり方には口を出さないと言っていた貞雄会長だが、これだけは声を大にして徹底している。トップもしくは責任者による毎日の試食。少しでも納得できないところがあれば、たとえ法的な基準をクリアしていても処分される。衛生面でも高い基準を設け、三社から監査を受ける。定期的に消費者団体のチェックも受け、消費者目線での商品づくりに努めている。
これらの厳しい品質基準こそ、ニッコーの事業の根幹にあるものだ。だからこそ、食材にこだわる生協等の取引先から重宝される存在になっているのである。「食」が消費者の信頼を得るためには、少しの隙があっても、一瞬の魔が差すことがあってもいけないのだとあらためて感じた。