【理念継承 わが社の場合】数々の困難を乗り越えて発展させてきた会社をだれにどう引き継ぐのか。松下幸之助経営塾塾生の「事業継承(承継)」事例~鷲見製材~をご紹介します。

 

ひだまりのような温もりを住まいに(2)からの続き

 

理念継承 わが社の場合

生きた理念の継承に向けて

世の中では、本物志向、ナチュラル志向が高まっている。「ひだまりほーむ」が提示する百パーセント国産材の住宅コンセプトは、その時流に乗り、住宅着工件数が低迷する現代にあって、むしろ受注棟数を伸ばしている。それはなぜなのか。石橋さんは次のように分析する。
 
「どんなに厳しい状況の中でも、私たちが提供する住宅はこうですという部分を決して曲げなかったこと。それがかえって、あの会社はぶれない、あるべき住宅の姿を一貫して追求しているとお客様に評価されたからではないでしょうか」
 
実際、「ひだまりほーむ」の住宅は、純国産の高品質の部材が使われているため、けっして安価ではない。にもかかわらず、受注棟数が増えているのは、「ひだまりほーむ」のブランドが徐々に地域に浸透してきたからにほかならない。そして、単に住む人にとって居心地がいいというだけではなく、この家を建てることが地域の森と文化を守ることになること。環境にやさしいだけでなく、地域の経済活動が活性化し、さまざまな雇用を生み出し、社会によい循環をもたらすことが、お客様に支持されてきたのである。
 
「ひだまりほーむ」の家づくりに共感するためには、個人的な価値よりもさらに一歩踏み込んだ、公共的な視点を持つ必要がある。お客様のほうにも、越えなければならないハードルがあるといってもよい。
 
したがって多様な価値観を持つお客様の理解を得るためには、お客様と向き合う社員が社長と同じレベルで鷲見製材の理念や「ひだまりほーむ」のコンセプトを語れなければならない。そのために、石橋さんが最も心を砕いているのが「人づくり」である。
 
「会社説明会では、ほとんど理念の話しかしません」と言う石橋さん。説明会の話を聞いて入社したいと思うのは、その熱い思いを共有できる人だけである。ベースとなる価値観を共有しているから、鷲見製材の社内の結びつきは強い。社内のだれもが、一人ひとりの成長を見守り、応援するという風土が根づいている。
 
理念を継承するのは人である。人が、自分の息づかいで語ることができてこそ、その理念は生きたものになる。鷲見製材の理念継承は、まさにその核心をとらえたものに思えた。
(おわり)
◆『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2013年5・6月号より
 
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