ラーメンと言えば福岡・博多の豚骨ラーメン。ラーメン人気店の話題になると、必ず上位に名前が挙がる「博多一幸舎」は、その激戦区の博多で2007年に創業後、熾烈なラーメン業界において、10年足らずで海外にも店舗を広げる大手ラーメンチェーンに成長した。その原動力と歩みについて「博多一幸舎」を展開するウインズジャパン創業者・入沢元さん(「松下幸之助経営塾」塾生)に話をうかがった。
◆博多のラーメン屋を本物の企業に(2) からのつづき
<使命に生きる>
「社長になる」と決めた男の志――part3
松下幸之助の本との出合い
このような考えに至ったのは、松下幸之助氏の書籍『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』(松下幸之助[述]、松下政経塾[編]、PHP研究所刊)との出合いがあるという。入沢さんは以前の自分を「人の話を聞かずワンマンで決断してきた。人の言うことを聞いて失敗した時に、人のせいにしたくないから」と苦々しげに語る。しかし、そのやり方ではうまくいかないと感じることも多かった。「借金もある、誰も僕の意見を聞かない、やる気も起きない、家に帰っても家族と喧嘩になる」。そんな時にこの本が価値観の転換を促した。同書の「誰の言うことでも一応は素直に聞く。いいなと思ったら素直に取り入れて実行する」という一節が目に留まり、腑に落ちたという。「きちんと聞く耳を持ちなさい、素直になることが大事だよ」と言われていると入沢さんは解釈した。
「社長というのはすべてできなければいけない存在なのだと思っていた。できない自分と思われたくなかったので、恰好をつけていたんですね。人と比べて自分はどうなのか、そんなことばかりを気にしていた」。人と会うのも苦手だったが、幸之助氏の言葉に倣い、ひとまず人とも会ってみようと行動を変えた。
そうしていると数々の出会いに恵まれた。勉強することの大事さを教えられ、ある人からは「入沢君、経営計画書をつくって経営計画発表会をやるといい」と勧められる。経営計画書などつくり方も知らなかったが、詳しい人に聞きながらやってみた。生まれた時からの自分を見つめ直し、自分のどこがよい点で、社員や社会に対してどういう自分でありたいかを一生懸命考えた。そして将来に向かってどうするか、数年単位で計画に落とし込んだ。計画発表会では社員を集めて話をした。「自分の思いを社員たちに話したのはこの時が初めて。自分で自分に感動しました」と少し照れる。
次の社長を育てる
「会社は社会の公器である」とも学んだ。「創業当時は自分と家族のために会社をやろうと思っていたが、会社は僕のものじゃない。役割として経営をしているだけだと教えられました」。入沢さんは近い将来、吉村さんに社長を譲ろうと考えている。「先にも言ったように、一幸舎の社長は尊敬されるラーメン屋の親父がふさわしい。ラーメンは吉村がやろうと言ったビジネスであり、吉村が考えた味。だから彼がボスになるべきなんです」。
そんな思いの裏には、「経営は実際にやってみないとわからない」という入沢さん自身の経験がある。「社長として切羽詰まった局面にぶつかるから、アイデアが浮かぶし成長する。だから社長という立場をつくってやって、社員を成長させてやりたい。それもできるだけ若いうちに経験させたい」。では、入沢さんはどうするのか。「私がやりたいのは、若い者たちを正しい経営ができるラーメン屋の社長に育てること」。経営から身を引くわけではない。立場を少し変えることで、自分もまた彼らとともに成長できる、そんな役割を担っていくのが次の目標だ。
「海外の店舗で働く社員たちにも、契約書だけの付き合いじゃなく、日本人、博多人の心意気を伝えたい。貧しい人たちも一幸舎でがんばれば店長や社長になれるんだと思ってほしい」。究極の夢は、一幸舎が大きくなることで世界が仲良くなること。「目標は世界大会。世界のパートナーたちが集まって、一緒に‘We are the world’を歌うことが私の経営計画の夢のひとコマです」。入沢さんは絶大な社長になると誓った幼い頃の志が、成長とともに少しずつ高くなってきていると感じている。
(おわり)
◆『衆知』2016.11-12より
DATA
株式会社ウインズジャパン(博多一幸舎)
設 立:2007年6月
資本金:1000万円
本部所在地:福岡市博多区博多駅東2-13-25
従業員数:社員60名 アルバイト250名
店舗:〈国内〉13店舗 〈海外〉32店舗
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